初めて花道の手が自分自身に触れたとき、流川の体は思いもよらないほど跳ね上がった。
どんな負けず嫌いであっても、こういう仕返しがくるとは思いもよらなかった。
花道のふとんに押し倒された自分を想像し、目眩がしそうになった。「桜木…ヤメロ…」
「て、てめーはスキ勝手したくせに!」
意地で、男のモノに触れられるのだろうか。
流川は目を閉じて、花道の手のひらをより深く実感した。
見られたくなくて、花道の首に両腕を回し、上体を近づけた。
「手…ハナセ…」
枕に倒れ込むように仰け反った流川のあごを、花道はじっと見ていた。自分自身が与える行為で、相手が気持ちよさそうにしている。その相手が流川だと、酔っていてもわかっていた。
「…さくらぎ…」
いつもより辿々しい声が耳元で囁いた。それが合図だったらしいが、花道は思わず手を止めてしまい、逃げることも受け止めることもできなかった。
自分の下で荒い呼吸を繰り返す流川に、花道はかける言葉も見つからなかった。少し汚れた右手の行き場もないように思えた。
「桜木…見た?」
「…な、なに…なにが…」
「てめーもイッたけど、オレもイッた…」
「あ………ハイ…」
そういえば、流川相手ではうまく出来たことになるのだろうか。花道は首を傾げた。
「…オレ相手にキンチョウするタマじゃねぇだろ」
「お…おう…」
「…そういうことだ」
花道は、見上げてくる流川の目をじっと見た。もしかして、これは勇気づけられているのだろうか。あの流川が、自分にそんなことをするのだろうか。
さっきまで、自分にしがみついていた男が、だんだんいつもの顔に思えてくる。けれど、ほんの数分前まで、憎らしいこの男が少し可愛く思えたのだ。
「ギャーッ!」
また突然叫び声をあげた花道を無視して、流川はふとんから滑り出た。
自分の腹部についた汚れを、黙々と拭いている姿に、花道は唖然とする。流川は、花道の驚く姿に、眉を上げてみせた。
「これがヘン?」
「あ……いや…そういうわけじゃ…」
「てめー、ホントに未経験なんだな…」
「な、なにっ!」
「……ティッシュくらい取れよ、どあほう」
「そ……そんな…ナマナマしい…」
流川は、久しぶりに大きなため息を花道に見せた。
「セックスなんて、ナマナマしくて、恥ずかしいモンなんだ。もっと遠慮なくアエいだらいいじゃねぇか」
まさか、同級生でライバルと思っていた男に、こんなことを諭されるとは思わなかった。
「わ、わ…いや…どーせ、オレはドーテイだよ」
ふん、と鼻息を荒くして、花道はまたふとんに閉じこもった。そこから自分以外の匂いを感じ、かえって流川に近づいた気がした。