もしかして、という疑問は浮かんでくる。けれど、花道は流川に確認する気はなかった。これは、一時的な関係なのだ、と自分に言い聞かせていたから。
「オレって……ドーテイのまま…」
「……だから?」
「いや、だからって……」
「……彼女ができるまで、しょーがねぇだろ」
最近、花道は誰とも付き合う気にならなかった。それなりにモテるスポーツ選手のはずなのに、思えば流川が来てからフリーのままだった。そして、何よりも、流川が全く表情を変えないまま「彼女」と言ったことに、少し傷ついた。
「そ…そーかもしんねーけど……ちょ、ちょっと…挑戦してみねー?」
「………何が…」
花道から、こういう提案が上るのは珍しかった。たいてい、流川がまるでお手本を見せるかのように、先に手を出してきたのに。それだけ、この手の行為に馴染んできたということなのだろうか、と流川はため息をついた。
「まさか……アナルか?」
「またお前は! なんでそうはっきり言うんだ!」
「……チガウのか?」
流川は花道の表情から、自分の推測の正しさを理解した。
それが頭に浮かばなかったとはいわない。けれど、まさか花道からそう申し出てくるとは。
「……オレが…掘られる方か?」
「ほられ……………」
花道はもう何度目かわからない絶句を味わいながら、それでも首を縦に振った。そうでなければ、自分の脱童貞にはならないのだ。
流川は返事をする前に、ため息をついた。「そういうビデオは観たことある」
「……耳年増みたく言うな、どあほう」
花道は、流川を俯せにしながら、そこを解し始めた。相手が流川で、男のアナルだとわかっているのに、花道は期待の方が大きかった。
一方、流川は花道よりも状況がしっかりわかっていた。
やってみたいと言ったけれど、それイコール自分相手に初体験だとわかっているのだろうか。もちろん、自分には女性器はないのだ。だから、初めてがそっちで良いのかと聞いてみたかった。けれど、流川はそうせず、黙って花道を受け入れた。
「……その……つらい?」
遠慮がちに聞かれて、流川は返答に困った。だから、黙って首を横に振った。
何を使ったのか、自分のソコが滑っている。花道の指が、思った以上にスムースに動いていた。
その指が抜かれて、心とは裏腹に体はホッとしたらしい。無意識に強張っていた体に励まし、流川はギュッと目を閉じた。
花道が自分に入ってきたとき、流川は枕を力強く噛んだ。
予想以上の痛みに、自然と涙が浮かんでくる。
苦しいと声を上げそうになるところで、花道は自分を引き抜いた。
「…えっ…」
まさか止めたのだろうか、と驚きの声を上げた後、流川は自分の天地がひっくり返ったのを感じた。
真正面から向き合って、花道は自分をじっと見つめてくる。たぶん真剣な表情の花道に、流川は首を傾げた。
「その……さっきみたいの方が楽らしいけど……こっちがいい…」
花道の表現は代名詞ばかりだったが、流川にはわかった。説明よりも行動が先だったのだから。
両足を抱え上げられるのは初めてではない。けれど、その足を思いっきり広げられ、流川の体はまた強張った。
うっすらと涙を流す流川の頬に、花道は唇を落とした。そういえば、これだけのことをし続けてきながら、キスしたことはない。胸に触れ、突起を含むこともあったのに、顔だけは避けていた。
けれど、互いが一つになって、近くで見つめ合ったら、口付けないのがおかしい気がして、花道は流川に触れるだけのキスをした。
すぐそばで見開かれた瞳から、また涙が溢れ出す。痛みによるものだけではなく、感動の涙だといいなと花道は思った。「…ルカワ…オメーって…」
こんなときに話しかけるな、と流川は目を閉じた。初めて花道にキスされたばかりなのに。
「……もしかして、ホモなのか?」
「……はぁ?」
初めて甘いムードになったと感じたのに、花道の言葉は何と場違いなのだろうか。流川は沸々と怒りが湧いてきて、花道を睨み返した。
「んな……涙目で睨まれてもなぁ…」
花道は、流川の肩を抱いたまま、小さく笑った。それは小さな振動となって、体の奥から流川にも伝わった。
「……なんつーか……今更かもしんねーけど…」
「…もう口閉じろ、どあほう」
自分が了解したとはいえ、勝手に人を抱きたいと言っておいて、その言いぐさは何だろうか。流川は花道の腕の中から、逃げようとした。
「…これ、オレのうぬぼれかもしんねーけど…」
「……ハナセ」
「…オメー…オレのこと、スキなのか?」
暴れ始めていた流川は、ピタリと動きを止めた。
こんな状況になるまでそんなことに触れなかったのに。ここまで来て確認するとは、なんと卑怯な奴だろう、と罵りたくなった。
そして、なぜ自分はこんな男をずっと思い続けていたのだろうか。
自分で自分が不思議だった。
「………だったら何だ…」
「…えっと……ちゃんと言って…」
花道の声はからかうものではなかった。真摯な瞳で見つめられることもなかったので、それに勇気を得て流川は小さく呟いた。
「……スキだ…」
花道は、目を閉じて、流川の額に自分の額をぶつけた。