テレパシー
冬の選抜に、花道は出場することが出来た。インターハイの頃のように動けている気がするが、半年前より成長している、ということではなかった。けれど、対戦相手は猛特訓してきたに違いない。いきなり3年生ばかりの翔陽と当たったせいと考えるのも不愉快だった。負けたのは、誰のせいでもなく、自分たちに原因がある。
暗い雰囲気で反省会を行い、湘北は冬休みを迎えることになった。
「チクショ」
花道は何度も毒づきながら帰宅した。
1ヶ月前の練習試合では勝てたのに。
やはり、試合は魔物だと思う。誰もが万全の体調でも、勝てないときもある。負け試合が初めてではないけれど、この悔しさの解消の仕方を、花道はまだ身につけていなかった。次の日曜日、流川は朝からコートにいた。花道も来る日だったが、お昼になっても現れず、流川はため息をついた。
なぜ自分がわざわざ、と思いながら、流川は花道宅に向かった。
「テメーはいろいろ引きずりすぎる」
玄関でそう言われ、花道は俯いた。流川の言う通り、一昨日の試合をまだ思い返してしまい、悔しくて眠れないでいた。今朝も起きていたけれど、なんとなくコートに出る気にならなかった。
「せ、性格だもンよ…」
開き直られると、流川も腹が立った。
「テメーみたいなヘタクソは、人よりもっと練習しなくちゃなんねーのに」
「…わ…わぁってるよ…」
顔を上げない花道に、流川がしびれを切らした。
「……勝手にしろ」
そう言いながら出ていこうとする流川を、花道は慌てて引き留めた。
「ま、待て!このヤロウ!」
腕を強く捕まれて、流川は花道を睨み返した。しばらく花道は黙ったままでいた。流川も腕をそのままに、じっと待っていた。
流川には、花道が聞きにくそうにしている内容がわかったからだ。
チームプレーをしている者なら、誰もが通る道だ。
「なぜ負けたのか検討したな」
「……お、おお……」
「特別誰かのせい、ってことは少ない。テメーみてーな初心者でない限り」
花道はようやく流川の腕を放した。
「今回はそんな話は出なかったろ? 誰も遠慮して言えなかったわけじゃねー」
顔を上げた花道を、流川はじっと見つめた。
「各々が自分のプレーを反省して、悔しい気持ちは何とか消化する。次に向けて練習して、同じミスはしないようにする。その繰り返しじゃねぇの」
だから、いちいち沈み込むな、と言った。これは自分に言い聞かせている言葉だった。インターハイの愛和学院との試合を自分がどれほど引きずったか、花道には言えなかった。
花道には、まだこういう経験が少なく、流川のように気持ちを切り替えることが出来なかった。
「ま……テメーは初心者だからな。どうやって、ってのは、人それぞれだから、聞いてもムリ」
今日はやけに何回も初心者という。花道はムッとしながらも反論できなかった。
「負けても……また次の試合がくる…練習しとかねーと」
以前と変わらないのだ、と流川は言いたかった。
花道は自分でも驚くほど真摯に流川の言うことを聞いていた。
しばらくして花道は大声で叫んだ。
「ば、バカ野郎!オレ様が落ち込むなんてあるわけねーだろ!」
流川は両手で耳を塞いだ。
「きょ、今日はちょっとオメーにコートを譲ってやろうとしただけ…これから行くとこだったんだ」
そう言いながら、部屋へ入っていく。きっと着替えるのだろうと流川にもわかった。
こんな言い方しかできない花道を呆れつつも、流川は黙って待っていた。
今日はビデオはなしで、もう一度コートに出よう。
「手のかかる……」
男だと思う。
花道宅の玄関で、流川は大きなため息をついた。