テレパシー
もうすでに何度も来たことのある部屋だった。いつもと違うのは、暗いまま電気をつけないこととか、花道が一言も話さないこととか。流川も黙ったままだった。
部屋に入ってストーブをつけた花道が自分の方を向いた。薄暗い中でもそれくらいはわかる。花道の部屋の入り口で立ちつくしていた流川は、突然回れ右をしたくなった。
なぜ花道のしようとしていることがわかるのか。
そしてなぜ、自分はここへ来てしまったのか。
二人乗りの間から、流川の体はすでに少し興奮状態だった。
「ヤリにきた…」
口の中で呟いた言葉が正解なのだろうと思う。
花道は性欲の対象にはならないはずだった。それなのに、先ほどの指を思い出して、流川は震えた。花道が一歩進んでくると同時に、流川は右へ一歩ずれた。そのまますぐにテレビの横の壁にいきつく。テレビと壁に挟まれた空間は、まさに逃げ場がなかった。
花道はまた左腕を差し出した。よく見ると、右手にハンガーを持っている。コートを着たままの流川に脱げと言っているらしい。なぜそれすら指示しないのだろう。流川は、学ランとコートを脱いで花道に渡した。
まだ暖まっていない部屋は、カッターシャツだけでは寒かった。今度は花道が、グレーのパーカーを差し出してくる。これを着ろ、ということなのだろう。なぜ無言なんだ、と何度も思ったけれど、流川は素直に着た。
同じように何か上着を着たらしい花道が、流川の前に立った。流川は目を逸らしたままだったが、花道も、実は流川を直視することが出来ないでいた。
「ルカワとしたい」
突然そんな風に思って、ここまで連れてきた。あの流川の興奮した姿に、自分は煽られてしまった。自分の刺激に素直に反応したのだ。体育倉庫ではこれ以上は、と思うところで必死で止めた。だから、もう一度、それを見たかった。
先ほどのようにくすぐるべきなのか。花道は少し考えた。くすぐっても笑顔は見られない。それならば、欲情した顔だけでいい。花道は意を決した。
ゆっくりと右手を伸ばし、流川の胸あたりに触れる。ビクッと肩を跳ねさせたけれど、流川は逃げなかった。
胸ポケットがわかり、きっとその辺に刺激ポイントがあるはずと、撫で回す。それに触れたとき、流川の口から吐息が漏れた。
これが流川のスイッチなんだ。
花道は突然自分自身がきつく勃ったことに気が付いた。苦しいのでさっさとベルトを取り、チャックを下ろした。
ゆるく何度も乳首を刺激すると、流川は両手を花道の肩に置いた。力強く掴んで、両腕を突っ張る。
「突っ張り棒だ」
と花道は思う。押し返しているけれど、離そうとはしていない。
「なんだ…ルカワもしたいんだな」
そう考えて、花道はますます調子に乗った。シャツのボタンを外すことにモタモタしてしまったけれど、その間も流川はただじっとしていた。そっと素肌に触れると、服の上からとは違う感触に花道は興奮する。誰かの乳首を、意思を持って触れるのは初めてで、肩を震わせる流川にワクワクした。
「ンン」
声にならない声を出して、たぶんしまったという顔をしているのだろう。その度に俯いてしまう。けれど、体が近づいたことに気が付いて、また突っ張り棒をするのだ。
反対側の乳首を責めると、その反対の方向へ首が向く。どちらにしても見えないけれど、見ないようにしているのかもしれない、と思う。ときどきストーブのある方向へ顔を向けると、ほんの少しだけ顔が見えた。
流川のベルトは片手で外すことはできず、ずっと流川の臀部を支えていた自分の左手を離す。腰を突き出していた流川は、それでも倒れなかった。スラックスがパサリと落ちる音にドキッとする。下着のゴムに手をかけたとき、流川の肌が冷たいことに気が付いた。
「はっ」
お互いのペニスを直接つけたとき、二人同時に声が出た。それくらい衝撃だった。
花道はすでに極限状態で、ほんの少しで射精してしまっていた。
あの流川のを握りしめたまま、と思うと、自分でもビックリだった。そしてその精液を、流川のペニスに塗りたくる。おかしなことをしているかもしれない、けれど自分の手は勝手に動く。流川に刺激を与えるため、いろいろな方法を考えている気がする。流川の指に力が入った。
流川の呼吸は荒く、突っ張り棒の自分の腕に顔を乗せて、肩を震わせてる。限界が近いと花道にもわかった。
「クッ」
流川の声は、いずれも短いものだった。射精の瞬間、花道の肩に顔を乗せた。自分の手に口を当てている様子がわかる。自分の耳に流川の耳が近づいて、そのことにも興奮した。流川の荒い呼吸はしばらく続いて、ゆっくり頭を持ち上げた。後ろの壁に後頭部がぶつかる音がしたあと、流川の喉がゴクリと鳴った。
それから花道は大急ぎでティッシュを取る。流川にも渡すと、素直に自分で拭き始めた。ゴミ箱を差し出したあと、軽く腕を引いて洗面所に連れて行く。暗いままだけれど手を洗うことは出来るだろう。何も言葉にしなかったけれど、流川に通じているらしく、水音が聞こえ、その後流川は静かに出ていった。
ものすごく怒濤の時間で、緊迫の空間だった。
けれど花道は、自分の興奮がとても満足して押さえられたことに気が付いた。帰り道、流川は何度も目を閉じた。首を振って、また忘れようとしてみる。
けれど、味わったことのない快感は、まだ15歳の少年には刺激が強すぎて、何度も思い返してしまう。あの花道だぞ、と自分に言い聞かせても、流川のペニスはまた淡い興奮を示す。
「したことねーから」
初めてのことだから仕方がない。流川は自分にそう言い聞かせた。
今日たまたまそうなっただけだから、もう二度としなければすぐに忘れるだろう、と流川はまた首を振った。