テレパシー
こたつをどかし、流川の横に滑り込む。ゴクリと唾を飲み込んでから、花道は自分の顔を流川の右耳に近づけた。流川の匂いだと、当たり前のことを確認する。自分たちはいつも練習後のままでしている。もしかしたら、自分ももっと汗くさいかもしれないと急に恥ずかしくなった。
流川のカッターシャツのボタンを外し、それでもまずはシャツの上から乳首に触れた。じわじわと指を動かすと、流川がモゾリと体を動かした。これは中途半端だったろうかと、花道はシャツの中に指を滑らせた。
流川がビクッとなるような触れ方は、ずいぶんわかってきていた。今日もそうすると、寝たままの流川の肩が跳ねる。顔の横に投げ出された左手が、枕代わりのざぶとんを掴んだ。
花道は、ゆっくりとシャツを両側に開いた。これまで暗い中というのもあったが、じっくり胸を見たことはなかった。今はストーブが流川の左側を照らし、右側に大きな影を作っている。乳首にも影ができて、突然立体的に見えた。
「たってる…」
花道が触れた左側の乳首だけが立っている。またドキドキした。
上体を倒して、花道は初めて乳首を口に含んだ。流川の体はしょっぱいと思った。
「ン…」
流川の声はたいていそんな感じたった。アダルトビデオなどとは全く違う。思わず漏れた吐息という感じで、喘ぎ声とは言えない気がする。けれど、学校や練習中には全く聞いたことのない夜の流川の声だった。
流川が身を捩り、腰の位置が変わる。
起きたのだろうか、と花道はその表情を確かめた。
その顔は、さっきまでのような穏やかなものではなかったが、まだ目を瞑ったまま、長いまつげを震わせている。少し眉を寄せて、ほんの少し口が開いている。声は出さなくても、これは喘ぎ顔なのではないだろうか。花道は、自分自身がまた勢いよく興奮したことに気が付いた。
右側の乳首も同じように口に包み込んだあと、舌で舐めてみる。
また同じような声が漏れて、流川の左腕が花道の肩を掴んだ。
「突っ張り棒くるか」
花道は押し倒しはこれで終わりか、と顔を上げた。
けれど、流川はストーブと反対側に顔を向けただけで、起きあがろうとはしていなかった。流川の右腕は、花道の腕の下側にある。だから、突っ張ることはできない。肩を掴めなかったせいか、流川は手首を返して、花道の二の腕を掴んだ。いつもと違うところを捕まれて、花道は緊張した。乳首を交互に責めると、流川の左腕は突っ張り棒を諦め、自分の顔を肘で隠した。もう起きている、と花道は思う。けれど、流川は逃げなかった。
右手の指に力が込められるのを、花道は何度も感じた。下半身に目をやって、苦しそうなところを解放する。いつもなら重力に従って落ちるスラックスも、花道が手を出さない限り移動しなかった。相手の服を脱がせる行為がこれほどワクワクするものか、と驚いた。
流川の下半身にも当然ストーブの明かりは届いている。けれど、花道は直視してはいけない気がして、すぐに頭を上半身に戻す。勃起した流川が新たな影を作っていたことだけは、ちゃんと確認した。
流川のペニスを手のひらで包むと、体が跳ねた。顔を隠していた左腕が、花道の肘を掴む。離せという合図ではないらしい。そのまま花道の手首近くまで滑っていった。流川が自分の手首を掴む様ははっきりと見えて、またドキドキが再発した。
花道はそのまま自分のペニスを流川の下腹部に押し当てた。いつも以上に限界が近い。流川の肩に顔を押しつけて、花道は先に自分だけ射精した。そうすると、余裕がでてきて、じっくり流川を責めたい気持ちになった。
花道の手の動きに、流川は何度か首を振った。ストーブに向かうと顔が見えることに気が付いて、慌てて反対側を向く。けれど、喘いでいると自然と首が左右に動くらしい。これまでは見えなかったので、気付かなかった。
暗い方に顔を向けると、花道の腕がある。流川はそこに口を押しつけて、声が漏れないように努力した。その間に、花道の腕はゆっくりと流川の肩に回された。明るい方の肩に自分の指が絡まっていて、花道は興奮よりも穏やかな気持ちになったことに驚いた。
ペニスを刺激し続けると、流川は唇を噛みながら、首を仰け反らせた。
「ン、ン、ン」
という短い声に連続に、花道は一層動きを速めた。その顎をじっと見ながら、花道はまた口をそこに近づけた。
ちょっと顔を近づけると、流川の息が自分の顔にかかる。頬に頬を当てると、意外と柔らかいことを知った。
流川が自分の肩に顔を埋めて射精する瞬間を、花道は目で追った。それからゆっくり弛緩して、ゴクリと唾を飲み込むまで、その表情のすべてを記憶しようとした。