テレパシー 

   

 これはまずい。
 花道も流川も感じた。
 自慰行為の延長だったと思うのに、昨夜はその範囲を超えていた気がする。
 お互い顔を会わさない日曜日、1日中お互いが同じようなことを考えていた。何度ももう止めようと思うけれど、また快楽に流されてしまうのではないかと心配になる。自分はこんなにも意思が弱かっただろうかと、二人ともが驚いていた。
 花道はその日バスケットやトレーニングをする以外、ずっとぼんやりしていた。脳内は昨夜の流川がグルグル回り続け、気を抜くとほんのり下半身に熱がこもってしまう。忘れようとアダルトな雑誌を見てみても、流川の裸に置き換わってしまう。
「重傷だ……」
 ビデオを観ても、女性の喘ぎ声が嘘っぽく聞こえてしまう。本気の声かどうか、花道には判別はつかない。けれど、少なくとも身近で知ったあの声は、もっと控えめだった。そもそも、流川と女性を比べること自体おかしいのだと、花道は気付かなかった。
 一方、流川は気まずさを強く感じていた。
 きっといろいろ見えていたと思う。いつものように暗い中ではなかった。のし掛かる花道から逃げ道はなく、密着し、花道にしがみついた。待つ間に寝てしまった自分が悪いのだろうか。寝てる自分に触れた花道がおかしいのか。
「待たせるから悪い」
 そう口にしながらも、待っていたのは自分だとため息をついた。
 あの男はいったい何を考えているのだろうか。

「実は男がスキとか…」
 流川は月曜日の部活が始まる頃、花道を横目で観察した。視界に入っても、まだお互い喧嘩もしていない。ほんの少し微妙な空気になっていることに、誰か気が付いただろうか。
 今はマネージャーと話している。遠目でもわかるくらい頬を染めて、ぐんと背中を曲げるように話している。手を頭にやってペコペコしてるように流川には見えた。花道が赤木晴子を意識していることは、誰の目にも明らかだった。
「つきあってンのか」
 初めてそんなことを考えた。自分を含め、誰が誰とカップルとか、想像したこともなかった。
 実際どうかわからないが、花道は多くの時間をバスケットに使っているし、日曜日は隔週とはいえ自分といる。その間の日曜日に何をしているかは把握していないけれど。
 いずれにしても自分には関係のないことだと思うことにした。

 予定の土曜日の朝、花道はもう誘うまいと自分に言い聞かせて登校した。それなのに、部活後の自主練習で流川と二人になると、下半身がなんとなくその気になってきてしまう。本当は二週に一度も遠いと思っているのだ。毎週にしてしまうと、もっと歯止めが利かなくなる気がして、勝手に決めたことだった。
 結局、花道はまた自転車置き場に立ってしまった。この日はいつもより着替えも雑にして、流川より先に来なければならない。また自分は汗くさいままだろうな、と少し俯いた。
 流川は断るだろうか。その可能性はある、と思う。
 この日、花道はいつもと違う汗をかきながら待っていた。内心ビクビクしていたので、流川の姿が見えても腕を差し出すことができなかった。
 対する流川も、いつもの場所に花道がいたことに複雑な気持ちになった。もう誘ってこないかもしれないと考えていたのでホッとした。けれど同時に、またヤルつもりか、となぜかイラついた。それならば、このままダッシュで逃げればいいと思うのに。花道がなぜ腕を伸ばしていないか、流川にはわかった。
「なんでわかる…」
 それがわからなかった。もしかしたら、勝手に想像しているだけかもしれないけれど。
 躊躇っているのは自分だけではない。
「テメーもか…」
 流川はため息をついた。それからゆっくりと歩み寄って、自転車の鍵を花道に差し出した。
 

2013.12.30 キリコ
  
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