テレパシー 

   

 あのストーブの夜以来、いつもの突っ張り棒に戻った。ペースも同じ二週間に一度だった。

 4月になり、新入生が入り、チームの雰囲気が変わった。中には流川ほどではなくても、経験者も多く、花道はウカウカしていられないと少し焦った。身長や体力では負けないが、技術面ではまだまだ及ばない。まるでたくさんの宮城に囲まれているかのような脅威を覚えた。もっとも表面上はそんな素振りは見せなかったけれど。
 自然と花道の練習量は増えた。逃げ出した一年前がウソのようだった。
 端で見ているだけだったが、流川には花道の考えがわかった。
「焦ってもしかたねー」
 水飲み場でボソッと呟くと、花道は驚いた顔をした。
「あ…あせってなんか…ねーよ…」
「……あっそ」
 体育館に戻ろうとした流川を、花道は追いかけた。
「オ、オレ…そんな風に見える?」
「……知らねー」
 自分にはそう見える。けれど、他の人にどう見えているのかは知らないし、知るわけもなかった。
「ハルコさんに…「教える立場になったね!」って言われて……オレ……」
 たぶんそう言われた雰囲気のままに声真似までした花道に、流川はなぜだかイラッとした。
「テメーが?」
 流川の口調に気が付いて、花道は顔を上げた。
「なんだよ…オレだって最近は…」
「…うぬぼれんな、どあほう」
 そのセリフは以前にも聞いたことがあった。1年近く経ってもまた言われるということは、自分は成長していないのだろうか。
 花道の顔が急に悲しそうな表情になり、流川はそれに気付いた自分に驚いた。
 いったい何にこんなに苛ついているのだろうか。
「テメーは…自分にできることをやってりゃいい」
「………は?」
 今度はその頭にクエスチョンマークが浮かんで見えた。
「焦るより…自分のペース崩さねー方が…大事…」
 流川の口からアドバイスに近い言葉が出てきて、花道は目を見開いた。
「テメーが教えられることがあるのか知らねーが……誰もテメーの真似はできねー」
 ずいぶんと勢いよく話すものだ、と花道は驚きっぱなしだった。そして、その内容も、後でじっくり考えるともの凄いことを言われた気がした。

 県大会が始まる頃から、これまでの習慣がズレ始めた。試合は平日のこともあるが、週末が多い。そのため、花道は日曜日に試合がある前日は、流川を呼ばなかった。その辺りの感覚が、花道にはわからなかった。
「だって……聞いたことねーもンよ…」
 一人で頬を赤くしてしまった。どのくらいのペースでオナニーしているか、と話し合ったことはない。試合の前日にするタイプか、避けるタイプか。聞ける雰囲気でもなかった。
 それでも止める気にはならなくて、花道は翌日試合のない日に誘うようになった。これまでのきっちり決まった予定ではなく、一週間以内だったり10日ほどだったりしたが、流川は一度も断らなかった。たぶんこれで了解、ということなのだろうと花道は思う。
 試合の後、自主練習のできない日は、みんなが解散するタイミングで花道は目線を送る。自転車がなくても、それで流川には伝わった。黙ったまま花道に付いてくるのだ。それが、なぜだかとても誇らしいことだった。
 試合の後は、なぜだかいつもより快感が強い気がした。勝ったせいだろうか。負けたときは、そもそも射精しようという気にならないかもしれない。同じ突っ張り棒でも、気持ちの充足感が違った。
 ストーブの夜以来、唯一やり方が変わったのは、花道が乳首を口に含むことだった。流川の腕が緩んだとき、覆い被さるように胸に張り付く。そうなると、流川はもう手を肩に置くだけで精一杯のようだった。
 立ったままでも、体はかなり近づいている。どうせなら、肩にある手を自分の背中に回してもいいのでは、と思う。まるでそうしてはいけない、と思っているかのように、流川は頑なだった。  

2013.12.30 キリコ
  
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