A Place in the Sun
花道は、これまで50回告白し、そして振られてきた。背の高い自分は、いつでも相手を見下ろしてはいた。けれど、背中を曲げて相手を威嚇しないように、いわゆる低姿勢だ。何しろ、お付き合いをお願いする立場なのだから。
けれど、流川の告白は花道の目から見て、かなり尊大だった。座っている花道をじっと見下ろし、まっすぐに立っていた。
「なんでそんなドードーと…」
あまりにも堂々としていて、自信満々なのかと腹が立った。
けれど、これだけ犬猿の仲の自分に告白することに、勇気がいらないはずはなかった。
流川の手のひらの汗は、緊張によるものだと思えたから。
花道でさえ格好いいと思う流川は、自分が好きなのだ。
「ふふん」
日曜日の夜、花道はなかなか眠ることができなかった。
誰かに告白されるのは、生まれて初めてのことだった。次の日からも、流川の態度は全く変わらなかった。クラスが違うために日中は会うこともなく、部活では熱心にバスケットをして、居残り練習をする。花道に話しかけることもなければ、花道のちょっかいにもこれまで通りの対応だった。
何の変化もないことが、花道には不思議だった。
ロッカーでの着替え中、花道は流川に話しかけた。
「なぁ…デンワでもする?」
「…なんで…?」
本当にわからない、という顔で、流川は首を傾げる。会っていてさえ話題のない自分たちに、電話というツールがどう必要なのか。
「う……まあ……平日は遅いから、土曜にデンワする」
そう言って、花道は流川から電話番号を聞きだした。
次の土曜日に、花道は流川に電話をかけた。時間まで指定されていたので、流川は仕方なく電話の近くで待機していた。日頃自分が取ることがないため、家族が驚いていたことを花道に話してみるか、と流川は苦笑した。それくらい、自分たちには話題がないではないか、と想像していた。
けれど、花道は電話口でよく話し続けた。決して一方的ではないけれど、その話題は桜木軍団が多かった。中学時代や高校に入ってからのこと、ときどき流川のアメリカの話しについて質問をしてきた。面と向かっているときは喧嘩腰の花道が、電話ではそうではないことに流川は驚いた。それほど熱心に相づちを打ったわけでもないのに、花道は楽しそうな声をしていた。そして、花道も、いつもより低く落ち着いた流川の声を、意外にも心地よく感じていた。花道がなぜか自信に溢れた顔をしている、と最初に気が付いたのは桜木軍団だった。
いつでも偉そうではあったけれど、不安なことも多いはずだ。怪我から復帰して間もないし、基礎練習を嫌がるのではないかと誰もが心配していた。
けれど、花道は黙々と指示されたことをしていた。以前逃げ出したことが嘘のように、真剣な顔をしている。流川にちょっかいをかけるのは相変わらずだが、流川が女子生徒に声援を受けても、花道は無反応だった。
どんなに流川を応援しても、その本人はオレが好き。
その言葉が、花道に自信をもたらせた。
バスケットの技術はどうしようもなく差があって、それでも自分は負けないように練習もするし、流川に挑み続ける。きっと追いついてみせる、と目標を持った。
「桜木くん頑張ってね」
マネージャーとなった晴子の言葉に、花道は背中を丸めた。
晴子にだけは申し訳ないと感じる。自分のせいではないけれど、憧れの晴子が好きな流川は、自分を好きなのだ。まるでメリーゴーランドというやつだ、と花道は俯いた。
それでも、花道はこの優越感を止めることができないでいた。「なあルカワ…遊園地行かねー?」
「…は?」
電話を始めて何週間か経ったとき、花道が突然言った。今日の電話は、流川がかけたものだった。
「…何しに…」
「なにってそりゃ…遊園地は遊ぶとこだろ」
「……楽しいのか?」
遊園地は子どもが行くところではないかと流川は思う。
今は選抜まで1ヶ月を切ったところで、できることならボールに触れていたい。
「まあ…デートっつったら、やっぱ遊園地とか映画とか…」
デート、という単語に、流川はドキッとした。自分たちは本当にお付き合いをしているのだろうか。
「…桜木…1月に入ってからなら…」
「おお…わかった」
花道の声が最後まで明るくて、流川はホッとした。
二人の電話にかなり慣れてきたけれど、結構神経を使うものなのだ、と自分で驚いていた。