A Place in the Sun

   

 春休みが終わり、新学期が始まった。バスケ部に入部希望の新入生は例年より多かった。経験者も半数以上いて、湘北が強くなるのではないかと宮城は期待した。2年生になった頼もしい後輩たちは、相変わらず喧嘩ばかりだった。
 花道と流川は、居残り練習の後、これまでのように短い時間手を繋いでいた。春休み中も毎日だった。ときどき、花道が顔を近づける。けれど、流川は顔を背けて、花道の頬を手のひらで押した。
「部室だぞ、どあほう」
 と毎日流川は言う。それでも花道もめげずに挑戦し続けた。
 電話とはいえ「スキ」と伝えたのに、なぜ流川の態度は変わらないのだろう。
 花道はそこが不満だった。
 思えば、流川から何か始まったことがなかった。そのことに気が付いた花道は、演技ではなく一人で仰け反った。
「あれ…?」
 手を繋ぐのも、電話も、デートに誘ったのも、キスも自分からだ。流川からは、あくまで「お返し」ではなかっただろうか。
「オレらって付き合ってんだよな…」
 流川はどれも嫌がってはいなかったと思う。結局一度しか聞けなかった「好き」という言葉も、聞き間違いではないはずだ。今でも、土曜の夜には電話で話している。ただ、県大会に気持ちが向かっているようで、これからは出かけられない、と言い渡された。
 一度でもキスしたら、またしたい、と思うものではないのだろうか。
 花道はムスッとした顔をしながら帰宅した。

 本格的に授業が始まった頃、流川の靴ひもが変わったことに花道は気が付いた。そういえばあの後、流川はすぐには使わないと話していた。インターハイ予選が始まるこの時期に気合いを入れているように見えて、花道は興奮した。自分が贈った靴ひもで、流川は試合に出るのだ。
「なーんだ…」
 流川もいろいろ考えてくれてるんだな、と少し実感できた。

 それでも、それから6月まで、二人の関係は変わらなかった。花道の誕生日から、一度もキスしていなかった。花道は不満だったが、県大会が終わるまで、と意気込んで我慢していた。
 昨年の赤木や三井のような選手がいたわけではないが、湘北はその年もインターハイ出場を決めることができた。
 試合の後、浮かれた気持ちで花道は流川に飛びついた。チームメイトの驚いた表情も無視していたら、流川も花道の背中を抱きしめた。久しぶりに抱きしめ合って、花道は胸が温まる。けれど、視線が痛くてすぐに体を離した。その日、解散と同時に流川の袖を引いて、花道は自分の部屋へ連れ帰った。
 立ったまま、荷物も下ろさずにキスをした。何度か触れるだけのキスをした後、ようやくお互いの体を離し、落ち着いて座った。
「ウチに来るの、久しぶりじゃねぇ?」
 花道は照れ隠しにそんなことを呟いた。流川は無言のままだった。
 それでも、その日はやはり二人ともが興奮していたのだろうと後で感じた。
 花道に押し倒されるままに、流川は畳に背中をつけた。もう一度キスをすると、流川の腕が花道の背中に伸びる。部屋の中は暑くて、お互いの汗がしたたるほどだった。
 流川の首筋は塩辛かった。試合の後、ロッカールームで軽くシャワーをしただけで、それからまた大汗をかきながら帰ってきたのだ。こうなるまえに体を洗う、という発想もなかった。手のひらで、せわしなく上下する胸を撫でると、体がビクリと反応する。小さな突起を見つけて擦ると、肩が跳ね上がった。花道は自分が興奮していることに気が付いて、今度はその乳首を口に含んだ。
 流川のことが好きだと感じたのは嘘ではない。けれど、男を抱くことが自分にできると思わなかった。
 勃起した流川のそれに直接手を添えて、自分にするように扱く。声を出すまいとしているのか、唇を噛みながら喘ぐ流川の表情を、じっと見ていた。整った顔は、こういうときにもやはり惚れ惚れした。
 流川の射精を直で見るより、苦しそうな表情やはだけた胸元を視界に入れている方が熱くなる。ティッシュを使うところなどは自分でするときと変わらなくて、あまり楽しくなかった。
 呼吸を整えた流川が起きあがり、座っている花道の下半身に手で触れた。半勃ち程度のそれにゆっくり触れて、ジッパーを下ろした。初めて自分以外の人に触れられて、花道は確かに興奮した。その手のひらが自分と似たような大きさと固さであっても、こんなにも感触が違うのかと驚いた。花道は両手を背中側で突っ張り、倒れ込まないようにした。男同士だから、どちらがどう、と決めなければならない。それならば、花道は自分が攻める側でいたいと強く思った。だから、流川に覆い被さられることに耐えられなかった。 

 

2014. 4. 22 キリコ
  
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