A Place in the Sun

   

 再会してから何度か流川にアタックして、その度に振られている。それでも、花道はあっさり引くことができなかった。中学時代は振られたら、すぐに諦めていた。今なら、その程度の想いだったとわかる。高校のときも、流川に対して中途半端な気持ちだった。流川がアメリカに行くとわかっても、自分は何の不安も感じず、笑顔で過ごしていた。何年も経ってから、流川が言った意味がよく理解できた。

 大晦日から新年にかけて、寮でパーティがあった。花道も少しはアメリカ生活に慣れてきていて、どんなものか想像がついていた。
「テメー…さっきからうっとーしー」
 いつもより舌足らずな流川に睨まれる。本気で怒っているようではなく、面白がっている表情に花道には見えた。年越しの瞬間のイベントを逃したくなくて、花道はパーティ中ずっと流川について歩いた。
「オメーは酒、強いのか?」
「……そーでもねぇ」
 素直に返事が返ってきて、花道もフッと笑う。それほど飲んでいるようでもないのに、少し顔が赤くなっている。花道を振り払うのを諦めたのか、ソファに座り込んだ。そのソファの肘おきに、花道もお尻の半分で腰掛けていた。
「あ…」
 遠くを見つめていた流川が小さく呟いて、花道は同じ方向を見た。
 その方向から背の高い女性が駆け寄ってきて、花道はドキリとした。
『カエデ…久しぶり』
『…うん』
 ソファに沈み込んでいたはずの流川が立ち上がり、その女性の背中に腕を軽く回す。相手の女性も同じように近づいて、頬を合わせていた。
 目の前でラブシーン、ではなく、本当は挨拶なのだろうけれど、流川が誰かとそうしているのを見て、花道は頭から炎が飛び出そうなくらい血が上った。
 しばらく何やら会話している。声は聞こえるけれど、花道には理解できなかった。確かに英語だし、自分もかなり慣れているはずなのに。全く耳に入ってこなかった。
 途中、流川がチラッと花道の方を見て、女性に耳打ちした。そして二人の視線を感じて、花道はまた汗が出始めた。もしかして自分の話をしているのだろうか。
 短い立ち話のあと、二人ともが小さく手を挙げて離れた。その女性は花道に笑顔を向けてから去って行った。元のソファに座った流川は何も言わないまま、手に持っていたお酒を飲み始めた。
「あ…の…ルカワ…今の人って…」
「……うん…メル」
 やっぱり、と花道はその女性の姿を目で追った。彼女が戻った先には、親しげに近づく男性がいた。
「今はこの寮のヤツと付き合ってるんだと」
「……そ……そーなんか…」
 それでも、別れた人とこんな風に笑顔で挨拶できるものなのだろうか。いや、そもそも、今の自分も同じなのかもしれない。流川が完全拒否したら、口もきかないだろう。
「な……なんで…別れちまったんだ…」
 流川がクスッと笑った。
「どーしても聞きてーのか…テメーは」
「…わかんねー」
 花道にもわからない。けれど、花道より長く付き合っていた人と、そして深い関係だった女性となぜ別れるのだろうか。
「セックスできなくなったから」
「………えっ?」
「…前に言ったろ……それ以来、なんか…」
「あ……うん……なるほど…」
「……責任ってなんだろな……オレはどう取るつもりだったんだろ…」
 流川がそんな風に呟くのは珍しいと花道は思う。お酒が彼を饒舌にしているのだろうか。
 しばらくグラスをじっと見つめていた流川に、花道はかける言葉も見つからなかった。
「…は、初めての相手って…やっぱ忘れられねーんかな…」
 花道は自分でもおかしなことを言っている自覚があった。
「……オレはメルが初めてじゃねー…」
「えっ」
「まあ……テメーともいろいろあったけど……女はメルの前にもいた」
 また花道の尋ねた以上の答えが返ってきた。花道はかなり落ち込んだ。会って話がしたいと思うけれど、しょっちゅうこんな風に過去が暴露されていく。その度に、辛い嫉妬に悩まされた。それでも、流川を知りたいと思う気持ちを止めることができなかった。
「そのいろいろをメルに話した」
「……いろいろって?」
『コイツがオレの初めての男なんだ』
「………へっ?」
「…って言っといた」
 さっき彼女に話していたのはそのことだったのか。
 そして、流川がそう言ったことに頬が熱くなった。

 それからほどなく周囲が騒がしくなり、カウントダウンが始まった。流川が花道を見上げながら、少し首を傾げた。花道は、先ほどの言葉が頭の中を回っていたため、口を動かすこともできなかった。
「年が明けたぜ?」
 流川が苦笑しながら言った。花道が何を狙っているか、わかっているからのしぐさだと思う。そして、どうやら流川は逃げるつもりはないらしい。
「…うん…」
 花道は、隣に座る流川の背中に手のひらを当てた。顔を傾けながら近づいても、流川は花道を見上げたまま動かなかった。唇が触れ合っても花道は目を閉じることができなかった。
「た…誕生日おめでとう、ルカワ」
 その言葉の後、流川は目をゆっくりと開けた。
「…これって新年のキスだろ?」
 至近距離のまま、流川が笑った。そんな穏やかな表情に花道の胸がギュッと音を立て、少し腕に力を込めた。
 アメリカの習慣にかこつけた、花道の想いを込めたキスだった。言葉ではなかなか伝わらないものを、唇に乗せた。
 もう一度キスをしても、流川は逃げなかった。 

 

あれですよ…「 」が日本語で、『 』は英語…のつもりです^^

2014. 5. 7 キリコ
  
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