A Place in the Sun

   

「麦茶…」
 流川がそう呟いたので、花道は今度はゆっくりと歩き出した。苦しまぎれに出た言葉だったけれど、どんなきっかけでもいいから流川と離れたくなかった。アメリカに来てから自分でお茶を作っていた。そんな自分を花道は盛大に褒めた。
 流川が花道の部屋に来るのは、これが初めてだった。そのときの流川は、見回す余裕もなかった。アルコールと嘔吐の辛さと、そしてこれから起こるかもしれないこととで、脳が上手く動かなかった。
 花道が差し出した麦茶を、流川は一気に飲み干した。
「わざわざ麦茶作ってンのか…」
「…うん…水にも慣れたけど、たまに飲みたくなる」
 コップを受け取り机の上に置いたその音で、花道の雰囲気が変わった気がした。隣に座った花道が流川の腰に腕を回す。またこの口にキスをするのか、と流川の方が気になっていた。
 一度目は触れるだけで、二度目は舌を絡め合った。ゆっくりとベッドに押し倒される。流川はどうにか心臓のドキドキを抑えられないかと、必死で考えていた。
 花道は、繰り返し流川とキスをしながら、過去の自分と比較していた。本当に好きな人にキスをして、キスし返されたらこんなにも興奮するものなのか。例え、吐いた後の匂いがあっても。そのことをようやく実感した。苦しくなった下半身を、花道はベルトを外して少し解放した。
 胸の上に耳を置くと、心拍がいつかのように早鐘を打っている。それが以前と同じものなのか、単にアルコールによるものか、花道にはわからなかった。熱い体にゆっくり触れて、流川のシャツをはだけさせた。
 ゆっくりと下腹部に降りていくと、流川の指が花道の赤い髪に絡まった。花道がジーンズと下着を少し下げるところも、流川はじっと見ていた。しぐさといい、観察する様子といい、とても慣れているように感じて、花道の胸はまたチリッと焼けた。
 流川自身に触れたことはあった。けれど口に含むことは初めてで、花道は勝手がわからず、だんだん焦っていった。それなのに、流川は顔を上げたまま、また自分を見ている。気持ち良さそうな表情ではあるけれど、夢中にはなれない程度のテクニックなのか。それとも誰かと比べられているのだろうか。
 花道は一度口を離して、ゆっくりと手を上下させながら流川のペニスをじっと見つめた。
 これまでに何人の人間がこれを見たのだろうか。手で触れられて、きっと口も使われた。女性器にも、もしかしたらアナルにさえ挿入したかもしれない。自分の知らない人たちと。いや、メラニーという女性だけは、現実に見てしまった。そうなると、二人の濡れ場が簡単に想像できてしまう。花道は、気持ちは興奮しているのに、体が萎えていくのを感じた。
 下手なフェラチオにも、流川はそれほど間をおかずに射精した。口で受け止めた花道は驚きながらも、それを面に出さないように努力した。以前、流川がそうしたように、花道もティッシュに吐きだした。何とも言えない味を意識しないようにして、花道は麦茶を飲んだ。流川のコップにも注いで渡すと、一口だけ飲んだ。
 起きあがった流川が花道の下半身に手を伸ばした。ああ、こういうシチュエーションは以前にもあった。あのとき、花道は自分がそれほど興奮しなかったことを覚えている。少女漫画のような恋愛を妄想していた花道には、射精する流川があまりにも生々しく見えたのだ。自分も同じなのに、と勝手な自分に呆れた。
 重力に忠実な自分に触れた流川が、すぐに手を引っ込めた。昔、このことが流川を傷つけただろうことが、今の花道にはわかる。全身から汗が吹き出た。
「る…ルカワ…すまねぇ」
 流川は心の中でため息をついていた。お酒のせいで勃起しないわけではないはずだった。ついさっきまで、花道は流川が驚くくらい興奮していたのだから。けれど、結局口では好きだと言いながらも、触れ合うことに抵抗があるのだろうと思った。以前のようには傷つかないけれど、ショックなのは事実だった。
「オレってちっちぇ…」
 頭を抱え込んで俯く花道に、流川はかける言葉が見つからなかった。酔っている流川には、花道はなかなか立派な息子を持っているとしか思えなかったから。
「か、過去に何があろうと…とか言いながら、オレすっげー気になって」
「……桜木?」
「うがああああああああ!」
 大声で叫びだして、流川は仰け反った。隣の部屋から壁を叩く音が聞こえて、迷惑レベルの声だと驚いた。
「オレ…シットでどーにかなりそう…」
 花道の言葉に、流川が意地の悪い笑顔を浮かべたことを、花道は知らなかった。
「……はて…」
 自分はなぜこんなにも嬉しいと感じているのだろうか。
 嫉妬されることだけではなく、花道が傷ついていることに対して、だと思うのだ。
 これまで、わざと花道に自分の過去を話していた気がする。今日のメラニーは偶然だけれど、見せつけるような挨拶をしたのだ。花道を諦めさせるためではなく、どこまで本気で追いかけてくるのか試している気がした。
「オレって……性格ワル…」
 こんなにも捻くれた性格だっただろうか。
 未だに頭を抱え込んでいる花道の背中を、流川はそっと撫でた。
「桜木…」
 謝るつもりはない。けれど、してもらうばかりは、自分の主義ではない。
 流川は床に降りて、花道の前に座り込んだ。その膝を割って、驚いている花道の体を少し押した。ベルトもチャックもくつろげられている辺りに手を入れて、力のない花道自身を流川は擦った。
「…ルカワ…」
 涙まで浮かべている花道の顔をじっと見ながら、流川は顔を下ろしていった。
 一気に奥まで呑み込むと、花道が素直な声を上げた。両手を後ろ手について、呼吸が荒くなる。何度かこちらを見ていることに気が付いて、流川も口に含みながら目線を返した。
 それはそれで、昔の流川と違うことを実感させられた。以前は強引だったせいもあるが、歯も当たり、お互いに余裕もなかった。けれど、スムーズな流川の動きに、花道は長い時間抵抗することはできなかった。

 

2014. 5. 7 キリコ
  
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