A Place in the Sun
花道の誕生日が過ぎた後、流川は不定期に花道の部屋に訪れた。別れたのか落ち込んでいるのか理由は一切説明しないけれど、いつもお酒を飲んでから現れる。素面のときはもっと返事がそっけなかった。花道からはスキという以外は、何のモーションもかけなかった。
「慰め役か…」
自分に呆れながらも、花道はどうしても流川を拒むことができなかった。
学年が一つ上がっても、その関係はそれ以上変化がなかった。次の年越しもエイプリルフールも、前日から当日にかけて、二人は可能な限り一緒に過ごした。花道が熱心に流川の予定を埋めていったからだ。けれど、それ以外の日は花道は少しずつしか声をかけなかった。あまりにもしつこくして嫌われる方が辛いからだ。
それまでに流川が引退し、卒業後の進路についてピリピリしていた時期もあった。花道はできるだけいつも通りに接し、詮索しないようにしていた。実際に行き先が決まったときも、流川が自ら報告するまで、花道は詳しく尋ねなかった。流川の卒業が間近になっても、流川は何も言わなかった。花道は行き先を噂で聞いていたので覚悟はしていたけれど、もしかして黙ったまま離れるつもりなのかと汗が出てきた。それは、西海岸から遠く離れたチームで、憧れのNBAではない。それでもマイナーリーグに所属できただけでもすごいと花道は思う。
「悔しかったかな…」
悔しくない選手はいないだろう。花道にはまだどこか他人事だった。けれど、想像はつく。
「ははぁ……また別れるつもりだな…あのヤロウ…」
口ではそう言いながらも、花道にも余裕があったわけではなかった。
流川がもうすぐいなくなる。そして、未だによくわからない関係のままだから。
会えなくなるのは寂しい。同じコートに立てなくなる。2年後、自分はどうなるだろうか。流川を追いかけるだろうか、それとももっと強いチームに喚ばれたら、そちらに行くだろうか。バスケットと恋愛を並べることはできない。大学は流川がいたから選んだ。けれど、バスケットマンとしては、流川より強くなりたいのだ。
「今度は敵かな…」
そんな未来を想像した。ワクワクするけれど、やはり寂しかった。「ルカワ、明日オレのとこ来ねー?」
花道が別の日の約束を話すことは滅多になかった。お互いの誕生日だけだったと流川は気が付いた。
「……なんで…」
「うーん…お別れ会かな」
流川はもうすぐ卒業する。もちろん寮も出てしまう。すぐに会える距離ではなくなるのだ。
いつもならそれほど間をおかずに返事をする流川が、しばらく考え込んでいた。
たぶん、花道の言いたいことが伝わっているのだと思う。
「……わかった」
「うん……あ、そうだ。明日は飲むなよ」
部屋を出ていくときに念を押されて、流川はドキッとした。
酔ったときだけ花道の部屋に行く。そういう構図を作ったのは自分だ。そういう勢いがないと行けなかった。落ち込んでいるつもりはないけれど、花道には流川の機微がわかるらしく、ずいぶん慰められた。花道は昔よりもはるかに穏やかになった。今でもスキだという自分に対して、紳士的だった。花道から手を出されたことはなかった。新年のキス以外は。
もう一年以上、誰とも付き合っていなかった。花道はそうは思っていなかったようで、俯いてお酒を飲んでいると別れてきた、と思うらしい。それとも、そんなフリをしていただけなのだろうか。
したい、と言う気持ちも、胸がドキドキすることも、お酒で誤魔化せると思っていた。
花道が好きだ。
その気持ちが、肌から伝わることを恐れていた。
「…オレの方がちっちぇオトコ…」
こんなにも臆病だっただろうか。バスケットなら、どんな相手も怖くはないのに。恋愛に関しては、なかなか経験値が上がらない。花道に対しては、15歳の自分が前面に出てきてしまう。大人の流川として接するにはお酒が必要だった。
流川は大きなため息をついて、覚悟を決める努力をした。