A Place in the Sun
約束の夜、流川はお酒を飲まなかった。元々強くないこともあるが、スポーツ選手としてお酒はそれほど飲みたくなかった。それなのに、花道を訪れるために時々とはいえ飲んでいた。自分の中で、花道の存在感の大きさを見つめた。それでも、流川は花道と付き合うつもりはなかった。
花道の部屋をノックすると、絶対ドアの前にいたに違いないだろうスピードでドアが開いた。そのことに頬が緩んだ。
何も言わないまま、花道は流川の背中を引き寄せた。肩をギュッと抱きしめられて、流川は目を閉じて悪あがきを止めた。どうやっても、心拍が下がらない。他では一切緊張しないのに、花道だけは駄目なのだ。そんな自分が花道にばれただろう。
ゆっくりと流川も同じように腕を背中に回した。こうしているだけで穏やかな気持ちになる。誰とも感じたことがない心地よさだった。
「ルカワ…」
名前を呼びながら、花道はしばらく動かなかった。
少し体を離して、手のひらで頬を包む。薄暗い部屋の中でも、お互いの目が合っていることがわかる。
「…ルカワ…スキだぞ」
もう何度目かわからないけれど、花道はその夜ほどうっとりとした気持ちだったことはなかったと思う。
「……うん…」
そこで、せめて「オレも」とでも言ってくれないものかと思ったけれど、流川はそうではなかった。それも花道の想像の範囲のことだった。それよりも手のひらに伝わる早鐘の方が、本心を述べている気がしたから。
衣服を脱がせ合うのも、フェラチオにもすっかり慣れていた。時間をかけて、いろいろなことをしてきた。いつだったか流川が真新しい潤滑剤を持ってきたときに、花道は覚悟したことを思い出す。実際には前立腺を刺激し合っただけだったが、今日は何としても花道は流川を抱きたかった。昨日誘った時点で、たぶん流川にもそれは伝わっている気がする。今日は大人しく、ずっと花道の下にいた。
ずっと以前、花道は流川に覆い被されることが男として耐えられない、と決めつけていた。けれど、二人で気持ちよくなることに、男の尊厳やプライドなどなくならないと知った。何度か流川に指で責められても、花道はただ嬉しいと思っただけだった。
「ガキってヤツは…」
本当に子どもだった。流川の方が、自分より大人だったと思う。流川の足をゆっくり開くと、体全体がこわばったことを感じた。そこで拒否されたら、花道はそれ以上押し進むつもりはなかった。
何か言った方がいいのだろうか。「行くぞ」とか、「挿れるぞ」とか、そんな言葉なのだろうけれど、花道は唾を飲み込むしかできなかった。
少しずつ流川の中に自分を進めてみる。あまりの抵抗の強さに花道も辛くなってくる。それでも流川が花道の両腕を掴んでいたので、花道なりに努力した。
ふと顔を上げると、流川の苦しそうな気配を感じた。
「その…イタイ?」
「……う…」
おそらく「うん」と言ったのだろうけれど、あまり呼吸もうまくできていないように思う。
「ちから…抜ける?」
「……どーやる」
流川が首を動かした音が聞こえて、花道を見上げた。
「えと……し、深呼吸とか…あ、くすぐってみるか…」
明るい花道の声に、流川は小さく笑った。痛くて苦しいけれど、そこには花道がいるだけだ。何の不安もなかった。
「…ちょっとラク…」
お互いがしばらくじっとしていた。
以前、流川は、自分は花道を信用していないと思っていた。それから信頼関係を結んだのだろうか。確かに花道はスキと言い続けて、優しくて、殴ることもなかった。けれど実は、やっぱり流川は全く変わらず花道を想っていて、こんなことまで受け入れるほどなのだ。
花道が好きだ。
そう思うと、辛い中でも胸は温まった。
ほんの少し花道が上体を倒して、流川に近づいた。
「ウッ」
流川の呻き声に、花道は慌てて止まった。
「あ、ごめん…そのルカワ……オメーって…」
花道の両手首を掴み直してから、流川は先に答えた。
「なんだ…またハジメテって聞きたいのかテメー」
「……うん…おかしーかな…」
「…そーいうの、気にするンだなテメーは」
「……ヘンか?」
「………知らねー」
また流川が吹き出したので、花道はほんの少し流川の中に進んだ。
「…見りゃわかンだろ…どあほう」
「……は、はじめて?」
流川が首を上下に振るのが見えた。そうかな、と感じるくらい、流川の中はきつく、また慣れていない様子がわかった。
「その……オレもはじめて…」
「……アナルが?」
「いや……その……」
花道が自分の頬をかいて照れているらしい。明るい中では嫌だったけれど、その表情を見逃したのはおしかったかも、と流川は笑った。
流川は痛みを堪えながら花道を引き寄せて、重ねるだけの長いキスをした。