A Place in the Sun

 

 最後まで流川は自分の行き先を告げなかった。花道は不満だったけれど、ここで聞いておかないとこの先会えなくなってしまうかもしれない。その方が嫌だった。
 引っ越しの荷物をまとめている流川のそばで、花道はウロウロしていた。
「住所は?」
「……知らねー」
「じゃー…オレんとこ連絡くれよ」
 手を止めて流川が見上げたので、花道は続けた。
「じゃねーと、手紙も電話もできねーだろ」
 今度こそ、遠距離でお付き合いしたいと思う。恋愛かどうか、自信はないけれど。
「オレ、あっちの方行ったことねーからわかんねーけど」
「……うん」
「知り合いもいねーだろ?」
「…別にいなくても」
 バスケットをしに行くのだから、と流川は思った。流川は、以前花道がいた街よりも、ずっと東に行く。
「ルカワ…オメーって手紙って書いたことある?」
「……ない」
 やっぱり、と花道は笑った。
 花道は、自分の宛名を書いたハガキを流川に手渡した。
「なんだこれ…」
「…オメーの住所と電話番号書いて送れ」
「……切手ない」
「…いくらかわかんねーからよ」
 しぶる流川に、無理矢理ハガキを押しつけた。それでも返ってくる確率は何パーセントだろう。花道は祈るような気持ちだった。
 せっかく同じ大学にいたけれど、2年間だった。流川が大学に入るのが早すぎて、自分は遅すぎたのだ。それでも、同じチームに入られて本当に充実していた。
「何しろ、天才コンビとして1軍に上がったわけだからな!」
 突然花道が大声を出したので、流川は嫌そうな顔をした。こういうところは、花道は以前と変わらないなと思う。自分たちの関係も、変化があったのだろうか。流川にはよくわからなかった。
 花道の言った通り、二人で1軍に上がった。2軍にいる間、出場するときは一緒で、ベンチのときも同じだった。もちろんベンチ入りできないときも。学年は違うけれど、いつからかコンビ扱いされていたと流川は思う。花道は、自分と肩を並べるほど成長したのだろうか。
「…そーいうことなんだろうな…」
 大物になるかもしれない、と感じた自分の目は間違いないと思う。けれど、後から始めた花道に追いつかれたり、抜かれたりするのは不本意なので、これからも必死で前を走り続けなければならない。アメリカで自分を認めさせてチームに入り、精一杯努力する。今の流川は気合いも十分で、かなり勢いがある。新しい土地に前向きな気持ちしかなかった。
「オメーはよ…オレがウワキするかも、とか思わねーの?」
「……ウワキ?」
「その……放っておいたら、他の人と…とか」
 以前、花道はただ一人流川以外に付き合った女子生徒の話をした。流川が聞きたがったから。正直に答えたけれど、今では彼女の顔も名前もうろ覚えだった。
「…よくわかんねーけど…」
「………けど?」
 流川は一度目を閉じてから、ゆっくりと答えた。
「オレは、テメー以外と付き合って見えたことがある」
「……おお」
「…テメーも……そーしてみたらいい」
「……それって、他のヤツと付き合えってことか?」
「……わかんねー」
 流川にもよくわからなかった。
 卒業間近の頃、部室の窓から外にいる花道がチアガールの女の子と話しているところを見たことがあった。そのとき、流川は自分の唇をギュッと噛み、血まで出たくらいだった。花道はこちらには気付かず、笑顔で話して、軽く背中を叩き合いながら歩いていた。
 それでも、花道と付き合おうとしない自分には、嫉妬する権利はないと思うのだ。
「…何事もやってみねーとわからねー…けど、オレに話すな」
 花道が両目を見開いたので、流川はまた荷物に視線を戻した。
「オメー……オレにあんだけたくさんバラしておいて…」
 苦笑しながら花道が背中に乗ってきた。流川は「重い」と文句を言って、それでも顔を上げなかった。
「ルカワ…スキだぞ…」
「……うん…」
 相変わらず返事はそれだけで、花道は流川の心拍に集中した。
 

2014. 5. 14 キリコ
  
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