A Place in the Sun

 

 花道の先導で、流川はそのアパートに入った。4階建ての最上階だ。体育館からも車で15分と、程良い距離に思えた。
 2DKの部屋はそれほど大きくはなかった。そして、すでに花道が生活しているらしく、部屋として整っていた。
「オメーの部屋、あっち」
 花道は指さしながら、そのときもまた先に歩いた。
 ドアを開けると真正面に窓があり、そこからの景色がまず目に入った。
「…海」
 部屋の窓から海が見えた。海にそれほど近くないけれど、ちょうど建物の切れ目だった。
 ほんの少し唇が上がった表情を、花道はじっと見ていた。
「どうだ?」
「…うん」
「…気に入った?」
「……うん」
 横から話しかけられても、流川は目線を動かさなかった。
 花道は、ずっと窓を見つめたままの右頬に、触れるだけのキスをした。
 ゆっくりと花道の方を向いた流川の表情は、驚いたものだった。今日はずっと目を見開きっぱなしなんだろうな、と花道は笑った。花道自身、流川と再会できて、嬉しくて堪らなかった。
 流川の背中に腕を回して、お互い目を開けたままキスをした。流川は逃げる様子を見せず、花道はスーツを脱がしながら、少しずつベッドへ向かった。
 流川のベッドはとりあえずのシーツを被せていた。その上に押し倒したとき、流川はようやく花道の背中に腕を回した。何度か目線を合わせたりしてみたが、流川はあまり目を閉じていないようだった。
 カッターシャツとネクタイはそのままに、花道はゆっくり流川を裸にしていった。今はまだ夕方で、部屋の中は明るい。それでも流川は抵抗しなかった。
 花道は、流川が射精した後、慌てて部屋から出ていった。
 流川は天井を見つめながら呼吸を整えた。ふと自分の腕を見上げると、未だに仕事用のシャツを着ている。ネクタイは首に絡まったままだ。契約のためにこの街に来た。まさか、ほんの数時間の後にこんなことをしているとは思わなかった。心臓の音が収まらないのは、花道に再会したからだけではない。未だに戸惑ったままだった。
 花道が走って部屋に戻ってきて、流川は少し顔を上げた。起きあがろうとしたら胸を押されて、足を広げられた。すぐに花道の考えがわかり、流川は目を閉じて深呼吸をした。
 まだ2度目なのだ。しかも、かなり間が空いている。やっぱり痛いし、苦しい。花道に宥められながらも、流川は何度か逃げ出したくなった。
 目を開けると、花道がこちらを見ていた。
「ルカワ…その、ダイジョブか?」
 花道の優しい声が聞こえる。先ほどからずっと、自分とこうしている相手を確かめていた。ただ赤い髪の男、というわけではない。間違いなく、花道だった。
「…うん」
 精一杯いつも通りの声で流川は返事をした。
 花道がそばにいる。花道が自分を抱いている。瞼が熱くなってきて、流川はギュッと目を閉じた。

 花道が流川の中に射精してから、しばらくはギュッと強く抱きしめ合った。
 それから花道は流川を引っ張って、シャワーの下に立った。シャツとネクタイを外し、最後に跪いて靴下を脱がせた。
 シャワーの下でもずっとキスをしていた。体を洗おうと思うけれど、腕を背中から外すことが難しかった。そのうち元気を取り戻した花道に気付いた流川は、花道の前に座りこんだ。
 流川のフェラチオにグッと耐え、花道は途中で流川を引き起こした。ゆっくり壁に体を向けると、素直に両手をタイルにつけた。花道は、また流川の中に自身を挿入した。そして、その肩をギュッと抱きしめて、その耳元に何度も「スキだ」と呟いた。

 疲れたのか、のぼせたのか、流川がぐったりしたので、花道は慌てて自分の部屋へ駆け込んだ。裸のままベッドに寝かし、タオルケットをかけた。枕を当て直したとき、流川が目を開けた。
「ルカワ…麦茶飲む?」
「…飲む」
 流川を介護するようにコップを支える。そんな自分を花道は楽しんでいた。
「疲れたろ? ちょっと休んどく?」
「……うん…」
 流川はもうすでに目を閉じかけていた。
 花道は何度か流川の髪を撫でてから、静かに部屋を出た。
 一人になってから、流川は目を開けて、部屋の中を見回した。
 全く知らない部屋だ。見覚えのない家具に囲まれて、花道が視界からいなくなると、どこにいるのかわからなくなる。けれど、花道の匂いがあった。ここは花道のベッドなのだろう。そう思うと、目を閉じても何も怖くなかった。
「桜木…」
 小さな声で呼んでみる。用があるわけではない。花道がいることを再確認したかっただけだった。
 懐かしい匂いに包まれながら、流川はしばらくして眠りに落ちた。

2014. 5. 21 キリコ
  
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