A Place in the Sun
花道は流川の腹部あたりに手を置いたまま、話し続けた。
「オメー、マーカスがオメーを狙ってるってわかるだろ?」
「……うん」
これまで同じチームのマーカスに対して、当たり障りのない対応を取っていた。けれど、今日は心配してくれる優しい気持ちに触れたかったのだと自分で思う。
「ケガは…ショックだろうけど、まあよくあることだし…」
花道は、流川の落ち込み方が気になった。大学時代も何度も怪我をしていたけれど、こんな様子は見たことがなかった。それとも、見せないようにしていただけなのだろうか。
いろいろと話題を変えて、探りを入れた。けれど、流川は相変わらず「うん」以外、言わなかった。
「あのヤロウに何か言われたのか?」
目を閉じたままの流川の眉がギュッと寄った。
「アイツはついこないだもオレに絡んできやがった…日本人がキライなんだなきっと」
花道の言葉に、流川は何も言わなかった。
「で……なんて言われたんだ…」
「……オマケ」
口元がふとんで隠れていたので、少しくぐもった声だった。
「…オマケ? なんだそりゃ…」
「…よくわかんねーけど…」
流川はキッと目を開いて、花道を見上げた。
「オレはテメーのオマケなんだって」
「………どーいうことだ?」
しばらく間を開けてから、花道は首を傾げた。
「チームは、桜木だけが欲しかったって」
流川がため息をついた。言葉にしてみて、少しずつ実感してくる。とても誇らしい気持ちと、悔しくて情けないマイナスの感情が交錯していた。花道は本当に大物になったのだろう。追い越された、ということか。実際、花道は流川が卒業した後も、大学の1軍に在籍し続けたのだから。
「えーと…ルカワ…ちょっとチガウぞ」
「……何がだ」
気を遣われたり、慰められる方が、流川には辛かった。
突然、花道がクスッと笑ったので、流川は驚いた。
「オレ…どーしてもルカワと一緒にやりたかったンだ」
頬を指でぽりぽりとかいている。花道の照れるしぐさだ。
「あちこちアプライするときに、ルカワとの天才コンビを買ってくれるところを探した」
「…コンビ…?」
「大学時代の栄光を知ってるのは、ここら辺ばっかりだったから」
花道が真剣な目を流川に向けていた。
「コンビを復活させたかっただけのことだ。だから、オマケとかじゃない」
それからしばらく、花道が自分の弱点をいろいろと話し出した。
「オレって今でもニガテシュートあるし、退場は少なくなったけどファウル多いし…、ルカワみたいにオールラウンドプレイヤーじゃない」
花道が勢いよく立ち上がり、少しベッドが音を立てた。
「まー、オレはよく飛ぶし、走るし、体力もある。パワーも黒人に負けねー」
流川は、花道の演説を黙ったまま聴いていた。
「しかも、天才コンビが復活したわけだから、もーコワイものねーだろ?」
ウィンクでもしそうな花道の表情を、流川はじっと見つめた。
「だからな…オメーがいないと、オレは試合に出られねーの…」
花道がベッドの近くに戻ってきた。
「早く治せ……ケガの間はオレのシュートチェックさせてやってもいいぞ」
瞼がじんわりと熱くなってきて、これはまずいと慌て始めた。
花道の優しさが心に染み渡った。
「……わかった…」
ほんの少し笑顔を作ると、花道が自分に近づいてくる。目尻がほんのり赤い。自分もきっと似たような顔をしていると思い、流川は花道をギュッと引き寄せた。引きずられるままに花道は流川のベッドに上がったけれど、ただ流川の背中を撫で続け、お互いを抱きしめ合った。