A Place in the Sun
その夜から、流川は少し変わった。それまでは、どこか花道に遠慮しているようにも見えていた。
「テメーは最近どこに泊まってた」
花道の作った夕食を食べながら、流川はじっと睨んだ。
「なんで夜いねー」
「……えっ…」
花道が答える前に、流川が質問を続けた。
「ダレと付き合ってる」
「ちょ、ちょっと待て待て…」
花道が手のひらを自分に向けたので、流川はようやく黙った。心の中で、ようやく聞けた、と思っていた。
「あ、の…カイルって覚えてる?」
「……ダレだ」
「大学のときの同級生で、2軍に一緒にいたヤツ」
「……そのカイルがどーした」
「な、なんか…最近不安定らしくて、みんなで交替でそばに付いてたんだ」
花道の説明は、思いついた嘘という雰囲気ではないと感じた。
「なんでオレに言わなかった」
「えっと……深いイミは…」
実は花道は、花道なりに賭に出ていた。行き先を言わずに外泊をしたら、流川はどんな反応をするのだろう。今でも「スキ」には「うん」しか言わない相手だ。一緒にいて触れあっていても、未だに不安だった。焼き餅を焼くだろうか。そして、今の流川は、明らかに不機嫌そうだった。
花道は一度俯いて笑った。ここで笑ったことがばれると、また怒られる気がしたから。
「…なに笑ってやがる、どあほう」
「わ、笑ってなんかねーよ」
流川の不愉快そうな声が嬉しい。そう感じる自分は、やっぱりマゾなのかもしれない。
「まあ…それも、結局どーにもならなくて、アイツは実家に戻ったんだ」
「……そーか…」
「オレは、ダレとも付き合ってない」
「……そーか…」
「ルカワ、スキだぞ」
テーブルに肘をついて、花道はニヤニヤしながら言った。流川は相変わらず不機嫌な顔をしたまま、「ふーん」と答えた。「うん」ではなかったけれど、やっぱりスルーされている気がする。花道は、それでも良い気分になった。流川が松葉杖をついている間、本当に花道のシュート練習を見ていた。横からボソッとアドバイスらしきものを呟いたり、「ヘタクソ」とため息をつかれるが、花道は一緒に練習できることが嬉しかった。
怪我をしている間は、花道も全く試合に出ることができなかった。暴れ者たちの言うことより、花道の言葉を信じようと、流川は決めた。過程がどうであれ、同じチームにいられるならそれで良いのだ。
それから本格的にシーズンに入り、月の3分の1くらいは遠征に出ていた。遠征先では同じ部屋とは限らず、花道はやきもきしていた。けれど、流川は見事にスルーしていた。ずっとモテ続けているせいか。おかしな表現だけれど、恋愛慣れしているのだな、と花道はため息をついた。流川の誕生日も遠征先で迎え、二人きりになれずに花道は苛ついた。せっかく久しぶりに一緒に過ごせるのに、と悔しく思う。
「シーズン中に生まれたわけだから、しょーがねーだろ」
相変わらず、お酒が入ると流川はいつもよりよくしゃべった。
元旦には試合はない。けれど、大晦日から遠征していた。ホテルでの年越しパーティも、花道は気が気じゃなかった。やっぱり今日だけは部屋を替わってもらえばよかった。
「オレは…日本人同士で連むのは、あんまりよくねー…と思ってたから」
だから、花道とのルームシェアも少し躊躇った。
「アメリカ人に溶け込もうと思っても…やっぱり日本人だな」
流川が取り留めなく話している間に新年を迎え、花道はその年も新年のキスをキープした。離れていた間、お互いが別の人とそういう機会はあったけれど、本当にただの挨拶だったな、と花道は思う。
家族やガールフレンド達も来ているので、かなり賑やかなパーティだった。その最中、花道は流川の耳元で誕生日の歌を歌った。