A Place in the Sun
流川から見て、花道には友人が多かった。それとも、自分が少なすぎるのだろうか。
こちらで大学生活を送っていても、大半はアメリカ中に散らばっていた。そして流川自身が筆まめではなく、あまり連絡を取っていなかったせいもあり、途切れてしまっていた。
花道は外泊はあまりしなくなったけれど、オフの前日にときどき飲みに行っていた。流川を誘ったり、そうではなかったり、いろいろあるけれど、いずれにしても流川はついて行かなかった。
「もうすぐバレンタインだな」
花道がそう言いながら出ていった。何気なく発したのだろうか、それとも何かのサインなのか。アメリカではチョコレートを作ったり贈ったりしない。花道も、ただ昔を思い出しただけだろうか。
チョコレートのときもそうだったけれど、流川は料理をレシピ通りに作ろうとする。それが美味しいはずだからだ。けれど、花道は流川よりアバウトだった。それを注意すると、花道はなぜか笑うのだ。とても楽しそうに。
「なんとなく…」
不思議だけれど、花道に包み込まれている気がする。守られるような立場ではないつもりだけれど、居心地は良い。
そして、ようやく、花道を手放したくない、と強く思うようになった。
これまでずっと花道の「スキ」をスルーしてきた。今更、どうすればいいのだろうか。ずっと以前、花道が言ったように、どういえば真剣さが伝わるだろうか。
その夜、流川は久しぶりに靴ひもを出した。暗い部屋でじっと窓の外を見る。これはこれで、自分を振り返り、精神統一になる。靴ひもを腕に巻いてみて、あれから何年になるのだろう、と考えていた。
「8年…かな…」
16歳の誕生日だった。いつの間にか24歳になっていた。知り合って、10年近くになるのか、と改めて驚いた。
本当に自分はしつこい男だ。女々しくも、靴ひもを後生大事に持っている。それなのに、花道に対して素直になれなかった。
自分はとても頑固だと思う。花道にもよく言われるし、家族もそう言っていた。高校生の自分は、なぜ花道の「スキ」を信じることができなかったのだろうか。想いの量を測定することはできないし、どちらが正しいというものでもない。それなのに、自分と「違う」というだけで、花道を否定してしまった。ちゃんとスキだと言ってくれていたのに。自分は勝手に傷ついたと思って、花道にひどいことをした。不必要に花道に自分の経験を話して、深く傷つけたと思う。
「頭が堅い」
本当に過去の自分を呆れ、責めた。出てしまった言葉は取り戻すことはできないけれど、もう花道に二度と辛いさせない、と心から誓った。その日、流川はオフ前日ということもあり、いつもより夜更かししていた。花道はまだ戻らない。もしかしたら、どこかで泊まってくるかもしれない。それでも、あれ以来、花道は必ず行き先を告げるようになったので、気持ちは乱れなかった。
そのとき玄関の鍵が開く音が聞こえて、流川は慌ててベッドに飛び込んだ。よく考えると、花道がこちらの部屋に入ってくることはないので、焦る必要はなかった。それでも何となく、流川はギュッと目を閉じて眠ったフリをした。
花道が鍵を投げる音や上着を脱ぐ様子がわかる。そのままシャワーか自分の部屋に行くだろう、と気配をうかがっていると、花道の足音が近づいてきた。
カチャッとドアが開いて、少しギーーと音が鳴る。目を閉じていても、ダイニングの明るさがこちらに入ってきたことがわかった。
また部屋が暗くなって、花道がすぐそばに立っていることがわかる。きっとじっと見下ろしているのだろう。もしかして、これまでにもこんなことがあったのだろうか。
流川は精一杯規則正しい深呼吸を続けた。寝ているように見えるだろうけれど、心臓がドキドキ跳ねていて、伝わりそうな気がした。そして、右手には靴ひもを巻いたままだ。これだけは花道に見られたくなかった。
顔を左側に倒していた。そちらに壁があるからだ。その右頬に、花道がチュッと音を立てたキスをした。ふわりとお酒の匂いがしてウッとなったのに、胸がキュッと音を立てた。頬にキスだけで、未だに舞い上がる。花道にしか感じない気持ちだった。あんなにもいろいろなことを経験してきているのに。
花道が、流川の胸あたりに耳を当てた。流川は動くこともできなかった。暗い中で花道がニヤリと笑ったことも知らなかった。
ふとんの中に頭を入れて、花道は流川の胸をまさぐり始めた。ゆっくりと撫でた後、何度も乳首を刺激された。起きていることがばれていたのだろうけれど、さすがにじっとしていることもできなくなった。
流川は身を捩りながら、両手を枕の下に入れた。花道はきっとこれからセックスをするつもりだろう。とにかく靴ひもだけは隠しておきたかった。
フリーになった両腕を花道の背中に回すと、花道がベッドに上がってきた。たくさんキスをして、花道だけフェラチオをする。流川がし返そうとすることを拒み、二人のペニスを擦り合わせた。
今日も挿入しないんだな、と思いながら、流川は射精した。花道も、それほど間をおかなかった。
「あの…デンキつけるぞ」
ようやく花道が口を開いた。ベッドサイドの小さな電気を付けただけでも、二人とも眩しく感じた。
流川の腹部だけでなく、スウェットまで飛んでいた。
ため息をつきながら流川が立ち上がったとき、花道は枕元に違和感を感じた。流川が着替える様子を横目で見ながら、花道は何となくそれを枕の下に追いやった。紐の端の素材に気が付いて、花道は突然心拍が跳ね始めた。
「そ…の…酒くさかった?」
「……うん」
そう言いながら、流川は花道にキスをした。花道もギュッと背中を抱きしめてから、静かに部屋を出た。