A Place in the Sun

 

 花道は流川の部屋を出てすぐ座り込んだ。頬の熱さに困り、両手で押さえる。目頭がじわじわ熱くなってくる。頭に血が上ったかのように、赤い髪の間から湯気が出ている気がした。
 あれは、靴ひもだ。きっとそうだ。
 そう思うとまた涙が溢れてくる。両膝に瞼を置いて、流れることを防いだ。
「ルカワ…」
 別れようと言ったくせに。再会してからも、ずっとスルーし続けていたくせに。
 花道は、流川からもらったプレゼントは捨ててしまっていた。流川に振られたときに。
「オレのバカ! ルカワのバカ野郎!」
 とても嬉しくて、とてもイライラした。
 流川の矛盾している姿に、自分は翻弄されてきた。矛盾、と感じていた自分は正しかったのだ。ようやく、花道は流川の気持ちがわかった気がした。いつも跳ねる心拍は、それを表現していたのだ。
 背中を丸くして座り込んでいた花道は、流川の部屋のドアが開いた瞬間、後ろへ転んだ。
「…桜木?」
 足下に花道が膝をかかえて丸まっている。てっきり部屋に戻ったと思っていたので驚いた。
 花道は、床に転がったまま話しかけた。
「なぁルカワ」
「…なんだ」
「今日、こっちで寝ていい?」
 改めてそんな風にお願いされたことはなかった。一緒に暮らし始めてから、触れあった後でも、いつも別々に眠っていた。
「……酒くさくなければな」
 うまい断り方も了解の仕方も思い浮かばず、流川はそれだけ言ってトイレへ向かった。その横を、花道が走り抜ける。大きな音を立てながら移動し、シャワーへと向かったようだ。流川は深呼吸してから、自分の部屋へ戻った。

 狭いベッドの端に寄って、流川はまた壁の方に顔を向けた。こうやって寝ていれば、花道は来ても勝手に入り込んでくるだろう。それまでに、できれば眠りに落ちたい。けれど、深夜を過ぎているのに、なかなか眠れなかった。
 靴ひもは、花道が出ていってすぐに仕舞い込んだ。これを見られただろうか、と一瞬ドキリとしたけれど、ちゃんと枕の下に隠れていた。
「気まぐれか…」
 突然バレンタインの話をしてみたり、一緒に寝ると言ってみたり。ただそれだけのことだろう、と流川はため息をついた。
 しばらくしてまたドアがギーーとなった。今度はこっそり、という気配はなかった。
 狭いベッドに花道のスペースが作られていたことに、花道は感動した。ゆっくりとベッドに入り込んで、上体を起こしたまま流川の顔をじっと見る。ほんの少し入る月明かりだけでは、あまりよく見えなかった。
 そっと頬にキスをすると、流川がクスッと笑った。つい先ほどはお酒だったけれど、今は歯磨き粉の強い匂いだったから、おかしかったのだ。
「…寝ろ、どあほう」
 流川は顔も上げなかった。花道はそんな流川を気にせず、耳やら首筋にキスをし続けた。
 花道がまた興奮しているのがわかり、流川は戸惑った。
 うまく拒否できないでいる間に、花道が次々に服を脱がしていく。こんなに本格的に盛り上がっている花道は珍しい。どちらかというと、流川より花道の方が淡泊だったから。
 執拗に乳首をいじられて、さすがに身もだえた。流川が花道の肩を押しても、お構いなしだった。
 いったいどうしたのだろう、と疑問に思いながらも、流川は何も言えなかった。
 フェラチオをされながら、前立腺を刺激される。体が熱くなったところで、流川はうつ伏せにされた。
「えっ」
 流川の驚いた声に、花道は反応しなかった。
 ゆっくりと、花道が自分の中に入ってくることを感じて、流川はギュッと目を閉じた。力を抜かなければ、と思うけれど、まだ慣れていなかった。前回は、初めてこの家に来た約半年前なのだ。
「ぐっ」
 短い呻き声に、花道がようやく止まった。
「ルカワ…ごめん…苦しい?」
 先ほどから、ものすごい勢いで花道に愛撫されていた。ようやく我に返ったのだろうか。
「…テメーが間を空けすぎるからだ…どあほう」
「え……いや…でも…」
「…勝手に決めンな」
 挿入するしないは、二人で話し合うものだと流川は思う。花道が自分の体調を気遣ってくれているのだろうとわかるけれど。
「うん……わかった…」
 花道は流川の背中にペットリと張り付いた。お互いに汗をかいているので、くっつくという感じだった。
 愛しくて堪らなかった。あまりにも流川が可愛くて、抱きたい気持ちが止まらなかった。
 花道は目の前の背中にキスをしながら、流川のペニスを掴んだ。
「ん…」
 花道を受け入れたまま、喘ぎ声が出たことはなかった。ほんの少し、花道はドキッとした。同時にギュッとアナルが締まる。花道の方が参りそうだった。花道も、まだ数えるほどしか経験はなかったから。
 今度は流川を仰向けにして、花道は挿入し直した。実際に表情が見えるわけではないけれど、向かい合う方がいいな、と花道は思う。流川のペニスに刺激がある方が少しは楽らしい、と花道は学んだ。
「ルカワ…」
 その夜は何度も呼んだ。
 花道は流川の中に射精したあと、先ほどのようにフェラチオを再開した。前立腺を探し当てると、流川の体が跳ねる。抑えるようにしているけれど、呼吸の速い低い喘ぎ声は、花道の男の部分を興奮させた。できれば、挿入しているときに喘がせられるようになりたいと思う。
 流川の射精後、呼吸が落ち着くまで、花道は流川の肩を抱きしめていた。それからの後始末を花道は急いでした。いくら明日が休みでも、いい加減寝なければならない。
 服を着せて、ふとんをかける。花道は流川に触れるだけのキスをした。流川が瞬きをしているのがわかり、次に額にキスをした。
 ゆっくりと体を横にする。密着するくらい狭いベッドだ。
 花道は左手で、流川の右手の指を絡め取った。
 しばらくして、流川が弱い力で同じように指を重ねてくる。
 それだけで涙が出そうなほど嬉しかった。


2014. 6. 4 キリコ

  
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