A Place in the Sun
それからは、遠征時以外はどちらかの部屋で一緒に寝るようになった。何もしない夜も、手を繋ぎながら眠りに落ちる。
「せめてダブル…」
もっと大きいベッドが欲しいと花道は思うようになった。
流川は眠り方が変わっても、文句を言わなかった。3月の下旬になって、最後の遠征が終わった頃だった。
30日の夜は、二人は花道の部屋にいた。
その夜、明日も日常なのに、花道はまた積極的に流川を抱いた。これまでオフの前夜しか花道を受け入れなかった流川も、その日は違った。
相変わらずぐったりする流川のケアをして、花道は流川の手を握りしめた。
「桜木…」
「…えっ?」
このタイミングで流川が話しかけてきたことはなかった。
「テメーは…誕生日に何が欲しい」
「た、誕生日…」
花道の誕生日は明後日だ。以前、流川の誕生日に、花道は同じ質問をした。
「そういえばオメーは何もいらねーって言ったな」
「…うん」
遠征中だったので、一緒に過ごした時間も少なかった。日にちをずらして、花道は流川に出来る限りの手料理をごちそうしたけれど。
「オレな……オレは…ルカワの愛が欲しい」
花道が手を力強く握りしめたので、流川は「イテッ」と文句を言った。
「愛って……なんだそりゃ」
目を瞑ったままの流川が笑っているのがわかる。
花道はじっと流川の方を見ていた。もう一度告白して欲しいと伝わっているだろうか。
すでにウトウトしかけていた流川なので、それから間もなく眠りに落ちた。
その夜、花道はかなり長い時間眠ることができなかった。31日の朝、花道は朝早くに目覚めた。すぐ隣にいる流川の顔をじっと見つめる。やはり綺麗な顔だけれど、どう見ても男だった。何度も裸も見ているので、間違えているわけではない。
花道は、流川の唇にキスをした。一度では起きなかったけれど、何度かしていると流川が嫌そうに逃げ出した。
ふとんをめくって、花道は流川の下半身まで移動した。スウェットをずらし、ほんのり朝勃ちしている流川自身を口に含んだ。明るい日差しが入る中で、しっかりとペニスを見る。やっぱり、何度確認しても男なのだ。
「朝から何やってる」
流川の怒った声が聞こえたけれど、花道は知らない顔で最後まで続けた。
ギュッと目を閉じて呼吸を整えている流川の表情を、花道はじっと見続けた。
「テメーは……わざわざ早く起こしやがって…」
今は7時まであと15分というところだった。
「もう起きようぜ」
花道が立ち上がったので、流川もしぶしぶ洗面所に向かった。顔を洗って部屋に戻ろうとしたとき、花道がキッチンに立っているのが横目で見えた。そのときは、何の違和感も感じなかった。
自分の部屋に入ってから、流川はベッドに横になった。もう少しだけ寝ることができる。目を閉じて、体を休めようと思った。
しばらくして花道が勢い良く部屋に入ってきた。その音で、流川はビクッとした。
「あーあーやっぱり寝てやがるな」
苦笑する花道を見上げて、流川は目を見開いた。
花道が、スーツを着ている。きちんとネクタイを締めていた。
「あれ…」
今日は何か特別な出勤日だっただろうか。流川は部屋のカレンダーを見て、日付を確認した。
「…桜木?」
ベッドに座ったままの流川を、花道はゆっくりと手を引いて立ち上がらせた。両手で両手を閉じこめて、花道はギュッと握りしめた。
花道が流川と目を合わせたまま、スッと静かに跪いた。ポケットから小さな箱を取り出したときには、流川は花道がしようとしていることがわかった。そんなポーズはこれまで何度か見たことがある。自分は傍観者か応援者だったけれど。
自分が驚きで口が開いていることを、流川は知らなかった。
「ルカワ…その、オレと結婚してください」
練習通りにはいかないものだ、と花道はため息をついた。それでも、言いたいことはちゃんと言葉に出来た。見上げると、流川の戸惑った表情が見えた。
しばらく待ってみても、流川からは何の反応もなかった。
花道は立ち上がって、また両手を握りしめた。流川は少し両目を見開いたまま、よくわからないところを見つめていた。焦点が合っていないのだろう。その瞳に、うっすらと涙が浮かんでいる。朝日の中で見る流川の瞳の色はグレーがかっていて、その美しさに花道に胸がキュンと鳴った。やっぱり、流川は綺麗な瞳を持っている。
「あの…ルカワ?」
首を傾げながら花道が話しかけると、やっと流川はハッと気が付いたように瞬きをした。その後、ギュッと力強く目を閉じて、そのときに涙が頬を伝った。まるで映画のワンシーンのようで、花道はずっと目が離せなかった。
俯いた流川の口から、ようやく言葉が出てきて、花道はあらゆる意味で驚いた。
「桜木…ごめん」
強い口調で言われ、花道はすぐに呆然とした。