A Place in the Sun

 

 4月1日の練習が終わったあと、二人は買い物に行く前に砂浜へ向かった。指輪をつけたまま外出することに、かなり勇気がいった。
 花道の中で、砂浜と夕日はセットで、そこには告白する流川がいるはずだった。そして、隣で座っている流川を見ると、まるで昔に戻ったような気がした。
「テメーは…」
「…うん?」
「なぜオレと…」
 流川の曖昧な質問も、花道は理解した。
「オメーこそ…なんでオレなんだ」
 花道は笑いながら問い返した。一度聞いてみたかったことだった。
「……わかんねー」
 今でも、花道のどこが好きなのか、わからない。口喧嘩もするし、一緒にいてイライラすることも多い。それでも、誰よりも胸がときめいて、他では感じられない安心感がある。そして、それをうまく言葉で伝えることができなかった。
「オレは……まあオメーの目がスキだな」
「……目?」
 いつでも流川の瞳に吸い込まれる。
「目は…オレが作ったモンじゃねぇ」
「……まーな」
 花道は、以前桜木軍団に答えたことを、流川には話さなかった。
 しばらく黙ったまま海を見つめていた流川が、また話し出した。
「オレは、男だぞ」
「……なにわかりきったこと言ってんだ、ルカワ」
 花道は笑ったけれど、流川は真剣だった。
「どうやったって、子どもも産めない」
「……うん…わかってる」
 流川がまた黙ったので、今度は花道から話した。
「しょーがねーじゃんよ。どーやったって、オメーにしか興味持てねー」
「……興味?」
「オメーに言われた通り、オレはいろんな人とたくさん話した。付き合ってはないぞ? けど、男とも女の人とも知り合ってみて……でもダメだったんだ」
 流川がほんの少し花道の方を見た。
「オメーの過去を知ったって、オレの気持ちは変わらなかった」
 また流川が海の彼方に視線を寄せて、しばらく沈黙が流れた。
「親に…話す」
「……なにを?」
「…桜木と結婚するって…」
 流川がはっきりとそう言って、花道はドキリとした。
「親って……べ、別にムリに話さなくても…」
「……テメーは言ったんだろ」
「…うん……けど…」
「普通は…報告するだろ」
「……けど……オレら、ふつーじゃねー……かもよ?」
「…どこが?」
「どこって……男同士とか…」
 流川が少し俯いて、クスッと笑った。
「……そーだな…」
 それでも、流川は花道を選んだのだ。たとえ大っぴらにできなくても、恥ずかしいとは思わなかった。
「結婚式とやらは…別にいらねー」
「……え、そう?」
 お互いがそう思っていればいいと流川は思う。
「……したいのか?」
「まあ……どちらかというと…」
 それから、一つずつ、二人で話し合った。
「洋平たちには言っていい?」
「……なんで」
「アイツらは、オレらが付き合ってたことも知ってるし」
「……なんだと…」
 一瞬額に怒りマークが浮かんだけれど、それでもチョコレートを作った日にそんな感じは受けた。今考えても、犬猿の仲の二人が一緒にチョコレートを作るのは、おかしかった。
 流川はため息をついて、了解した。
 それから、チームに話すかどうか、別々のチームの喚ばれたときにどうするか、将来日本に帰るかどうかなど、たくさん話し合った。
「家計とか…今まで通りでいけるよな」
「…うん…たぶん」
「もうちょっと味噌とか安いと助かるんだけどなぁ」
 花道の呟きに、流川は苦笑した。
 かなり夕日も沈んでいて、薄暗くなり始めていた。急に周囲の気温が下がったことを感じた。
「なぁルカワ」
「……なんだ」
「オレと…ホントに結婚してくれる?」
 ずいぶんと軽い言い方になってしまったけれど、とてもリラックスしていて自分らしい気がした。
「……うん」
 いつもの流川の返事だ。けれど、これだけはちゃんと答えて欲しかった。
「ルカワ…立って、ちゃんと返事して」
「……立つ?」
「…オレ、オメーに見下ろされるのがデフォルトな気がする」
 花道が笑っても、流川には理解できなかった。それでも、流川は立ち上がって、花道を見下ろした。
 ああ、そういえば、こうやって告白したな、と思い出した。
 自分が服の裾を掴んでいることに気が付いて、流川はできるだけ自然体に戻ろうと努力した。
 かなり長い時間が経ってから、流川はようやく口を開いた。
「………はい」
 それからしばらく待ってみても、それ以上何の言葉もなかった。
「そ……それだけ?」
「……ふつーだろ、どあほう」
 流川が照れているのがわかる。差し出された流川の手を、花道は握り返して立ち上がった。冷たい手のひらが汗をかいている。やはり、昔に戻った気がした。
 ゆっくりと流川が歩き出して、花道も引っ張られるままに動いた。ここは、昔と違った。半歩前を歩く流川が、いつまでも手を離さなかった。
「人目が…とか言わねーの?」
「……別にいー」
「今日は変装してないぞ?」
「………夫婦だったらふつー」
 流川からそんな単語が出てきて、花道は胸が熱くなった。
「る、ルカワが奥さん…?」
「……どあほう」
 花道は、じわじわと涙が浮かんでくるのを感じた。
「スキだぞ…ルカワ」
 いつもと少し違う声に感じて、流川は振り返った。花道の泣き出しそうな表情に、流川ももらい泣きしそうになった。
 流川が空いている手を花道の頬に当てたとき、花道はこらえられず俯いた。
 そっと触れるだけのキスをして、流川も目を閉じた。
 額と額を合わせて、流川はやっと「あいしてる」と囁いた。
  

次は後日談です

2014. 6. 18 キリコ

  
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