のろい

   

 流川が目覚めたとき、部屋の中はまだ薄暗かった。おかしな時間に目覚めたことと、見慣れない場所に戸惑った。隣から規則正しい寝息が聞こえてきて、すぐに花道の部屋だと思い出した。
 体を起こして頭を掻くと、少しべたついていて不快だった。昨日、シャワーくらい使ってから来るべきだった。自分はいったい何をそんなに慌てていたのだろうか。流川は自分の行動を笑った。
 洗面所で顔を洗っても、家の中には誰の気配もなかった。お腹が空腹を訴えて、昨日の残り物らしいチキンを頬張る。このウーロン茶は確か自分のものだったと記憶を確かめた。
 これからどうするか、流川は天井を見ながら考えた。
 花道に再会した。今のところそれだけだ。まだ会話もしていない。それどころか、花道の顔を見ても、何のトキメキも感じなかった。
「まーいっか」
 それだけ確かめれば良いのかもしれない。けれど、もう二度と会わないかもしれない相手だ。確信を持っておきたかった。
 寝ているのなら丁度良い、と流川は花道に近づいた。
「酒くせー…」
 およそキスをしたいと思う口元ではなかった。もっとも、自分も今はチキンの匂いかもしれない。
 それなのに、久しぶりにそういう雰囲気に自分がなると、下半身が淡い興奮を示し始めた。
 花道に覆い被さるように中腰になってから、流川は小声で花道を呼んだ。
「桜木…?」
 全く変化が見られず、熟睡していることに安堵した。
 流川は、花道の少し開いた唇を見つめたまま、自分の唇を押し当てた。
 触れあったまま目を閉じると、やはり勘違いではなかったと思う。この分厚さとか弾力とか、肌の熱さなのだろうか。自分でもよくわからないけれど、流川はこの唇を知っていると感じた。
 そして、自分自身がまだ興奮したままのことにかなり驚いた。


 花道はアダルトな夢を見ている気がして、勃起している自分自身に寝たまま触れようとしていた。そこに生暖かい感触を感じたけれど、気のせいだと思っていた。指先を伸ばすとサラリとした髪の毛にぶつかった。自分の陰毛ではない。もっと高い位置にある。花道は両目を見開いて、すぐに上半身を起こした。
「る……ルカワ…」
 すぐに流川だとわかった。けれど、何をしているのかがさっぱり理解できなかった。
「チッ」
 わざわざ口を離してから、流川は舌打ちをした。それでもまだ流川の右手が花道の分身を掴んでいた。
「あ……の……なにして……」
「何って…フェラチオ…かな…」
 それはわかる。花道も知識として知っている。
 そうではなくて、なぜそうしているのか。
 薄暗い中でも流川だとわかる。それなのに、自分は萎えなかった。むしろ、初めて与えられた感触に、感動すら覚えた。
「そ、そ、その…なんで…」
「…いーからイケよ」
 確かにもうすぐ射精しそうだった。いったいいつからそうしていたのだろうか。
 流川が躊躇いなく右手を上下させる。花道が「うっ」と声を出すと、流川はまた口腔内に含んだ。
 誰かに射精を見られることが恥ずかしくて、必死に声を抑えようとした。ほどなく自分の腹部あたりに放つ。両目を力強く閉じて、余韻に浸った。けれど、その間に流川が冷静にティッシュで拭っているのがわかり、恥ずかしくて顔を上げることができなかった。

 

2014.10.17 キリコ
  
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