奇 跡
流川が会場になったリビングに戻ったとき、もう数人しか残っていなかった。どこかの部屋へ消えたのか、それとも帰ったのか。先ほどの女性もいなかった。そういえば名前も覚えていないことに気が付いた。
流川が帰るといったことに、チームメイトはそれほど驚かなかった。流川はいつもそうだったからだ。
『花道も一緒に帰るのか?』
『そりゃー…一緒の方が安全だからな』
もっともらしい説明で花道は立ち上がった。確かにほとんど一緒に帰宅していた。同じ家なのだからおかしくない、と花道は主張する。
チームメイトがニヤニヤと笑っていることを横目に見ながら、流川は玄関に向かった。こういう噂は消しようがない気がする。消すためには、二人が女性と付き合えばいいのだけれど、あいにくそれもうまくいかない。
それでも、家に帰るとホッとする。隣には花道がいて、それが当たり前になっていた。
花道はずっと無言のままだった。何も聞かれないし、流川も自分から話さなかった。花道の年越しのキスが、誕生日の初めてのキスなのかと気が付いたら、気分が浮上した。だから強引にあんなところで、と思うと、おかしくて堪らなかった。
一緒にうがいをして歯を磨く。流川は少し俯いたまま歯磨きをした。花道からの視線を感じて、流川はわざと「したくない」オーラを出していた。
腰に腕を回されて引き寄せられる。花道とキスをすると、先ほどのキスをすぐに忘れてしまった。穏やかなキスに目を閉じる。唇が離れても目を閉じたままでいて、「眠い」と呟いた。
今日はたぶん花道がしたがる気がした。本当は自分もしたい。二人の思惑がずれてしまったと感じたとき、花道はどうするだろうか。諦めるだろうか、それとも改めて誘われるだろうか。
「もーちょっと…起きてて」
花道の驚くほど優しい声に、流川は目を少し開けた。そんな可愛いお願いをされると思わなくて、思わず花道の首に両腕を巻き付けた。頬が熱い。照れたときの自分の顔を見られたくなかった。
また抱っこされて、流川はお決まりの文句を言った。
花道の部屋に連れられて、ベッドに一人で腰掛けされられる。おや、と思う間もなく、流川は着ていた上着を全て脱がされた。
まだ温まっていない部屋で裸は寒く、思わず身を縮める。すぐに花道が自分の服を投げて寄こし、これを着ろという合図を送った。その服も冷たくて、流川は身震いした。理由はよくわからないけれど、花道の機嫌が良くなったのがわかった。花道がジーンズを脱いだので、流川も同じようにする。それも寒かった。そういえば、いつもは部屋着だったから、こういう脱ぐ時間というのが気恥ずかしいものだと知った。
ふとんも冷たいけれど、花道だけは温かい。上半身はぴったりとくっつけて、下半身を絡ませた。
ゆっくりと花道がキスをする。首筋に降りていったのにまたキスに戻ってくる。
「…途中で寝るぞ…」
あまりのんびりされると、眠気の限界がきそうだった。
「なるほど」
花道が笑いながらふとんの中に潜っていく。
「テメーから知らねーオトコの匂いがした」
花道がこんなときに珍しく話す。先ほどまではずっと無言だったのに。
本当は、花道の声を聞いても興奮は収まらない。あのときは、花道の声で我に返ったと思う。
「まぁ…あれだけ汚されちまったら着替えないわけにはいかねーけど…」
花道がブツブツ話す内容を、流川はすべては聞いていなかった。これが上半身を脱がされた理由なのだとわかり、ただおかしかった。
「シャンプーも知らない匂いだ」
文句をつけられているのだろうか。それでも流川は何も言い返さなかった。
花道の嫉妬が心地よい。
不思議な感覚だった。花道が上半身を起こしたので、流川はふとんがなくなったことに抗議をした。
「じっとしてて」
今日は何となく言い方が優しい。
すぐにアナルあたりに冷たいものを感じて、流川の体は跳ねた。
「つめたっ」
キュッと両脚を閉じようとしても、また花道にこじ開けられる。ヌルヌルとした指がアナル周辺を動き、しばらくして自分の中に入ってきたことを感じ、流川は思わず逃げた。体を上にずらそうとしても、すぐにベッドの端に来る。流川が足を動かしても、花道の指に迷いはなかった。
目を開けて薄暗い天井を見つめる。指が挿入されている場所を改めて考えてゾッとした。流川にはそんな考えは思い浮かばなかった。また一つ、新たな事に進んでいるのだろうか。
それからほどなく、何も考えられなくなるような強い刺激が来て、流川は嬌声を上げた。口を押さえることも出来ず、体を仰け反らせた。
花道が覆い被さってきて、流川の口を閉じた。
ほどなくして流川が勢い良く射精した。放り出していた両腕を花道の首に巻き付かせて、ギュッと抱きついた。どこかへ飛んでいってしまいそうな快感は恐怖だった。
呼吸が落ち着くのに時間がかかり、流川は頭が真っ白になったまま目を閉じていた。目尻から涙が出てくる。フェラチオとはまた違う気持ちよさに体が震えた。まだペニスは興奮したままだった。
花道がゆっくりと流川の肩に腕を回し、触れるだけのキスをした。
「あの…た、誕生日おめでとう…」
とても小さな声で花道が言う。流川は目を閉じたまま、ただ頷いた。
花道の空いている手のひらが流川のペニスを掴み、流川は両腕に力を込めて、花道を呼んだ。