奇 跡
流川は尿意をもよおして目が覚めた。すぐに花道の寝息に気が付いて、慌てて起きあがった。時計の針は2時間ほど進んだだけで、まだ日付も変わっていなかった。
花道はぐっすり眠っているようだ。一緒にいたことに気付かれていないのなら、と流川は深呼吸した。
部屋を出て、トイレの後、洗面所へ向かった。シャワーも浴びたいところだけれど、歯磨きだけで我慢しようと決めた。花道が起きてくる前に自分の部屋へ戻ろうと急いだ。ふと鏡を見て、頬に寝ていた跡がついていることに気が付いた。
「案外寝れるモンだな…」
シングルベッドに自分たち二人が眠れるはずがないと思っていた。どうやって寝ていたのだろうか。流川の中ではベッドで一緒に朝を迎えることは恋人同士がすることだった。だから、これまで頑なに拒否してきた。
ふと花道が動き出した音が聞こえた。自分と同じような行動をしている。きっと洗面所に来るだろうと思い、流川は歯磨きを終えた。
ドアを開けた花道は目が開いていないような表情をして立っていた。
「ルカワ…オレいつ帰って来たンだ…?」
「……どあほう…」
流川は笑いそうになった。
ボサボサになった赤い髪を掻きながら、花道が鏡の前に立った。歯ブラシを取りながら、流川の方をじっと見つめた。
「なんだ…」
「…いや…」
「…どけよ、どあほう…オレはもー寝る」
狭い洗面所の奥に追いやられた流川は、花道が邪魔で通ることができなかった。花道が前屈みになったので、余計通れなくなった。
花道は、先ほどまで誰かと一緒だった記憶があった。誰かの温もりを感じながら眠るのは、幼い頃以来だった。その記憶が確かなら、相手は流川しかいない。そして、流川の顔にはさっきまで寝ていた跡がある。
「うわぁ…」
歯磨きを止めて花道が呟いたので、流川はその背中を叩いた。
「どーでもいいから、通せ」
「……ヤダ」
ものすごい勢いで花道が振り返り、流川の腰を両腕で抱きしめた。唇を突き出してくる花道の顔を、流川は手のひらを当てて押し返した。花道がそのまま流川に近づいたので、流川は自分の手の甲にキスをする羽目になった。
「まだ誕生日だから」
「……だからなんだ」
花道の手が流川の手を掴んで、口元からゆっくり離した。静かに唇を重ねただけで、花道は一度離れていった。
「20歳って…もっと特別かと思ったけど…」
「…なんで特別なんだ」
「うーん……成人になるンだろ?」
「……年齢だけ大人になってもな…」
「…ルカワ…それってどーいう意味?」
花道の眉が寄せられた。その顔のまま、流川に近づいてきた。
「精神的にガキのままなら、20歳だって変わらねーだろ」
「そ…そんな……オメーは大人か?」
「……少なくともテメーよりはな」
「そんなはず…ねー」
いつの間にか深いキスになっていた。流川の両手は洗面台に乗せられたままで、花道は両腕でその腰を引き寄せていた。
唇を離した花道がスッと座り、流川はその動きを目で追った。抱き上げる動きではないので戸惑った。
「…桜木?」
花道は流川のジーンズのベルトを外し、ほんの少しくつろげた。下着越しに少し興奮している流川自身が見える。そのゴムを引っ張って、花道は直接口に含んだ。
思いもしなかった行為に、流川はすぐに興奮が強まった。いつも同じベッドの上だったけれど、シチュエーションが違うだけでこんなにも変わるものなのかと驚いて、ギュッと目を閉じた。
なんとか花道の赤い髪を引っ張って剥がすことに成功した。呼吸が乱れていることが恥ずかしい。洗面所は明るすぎた。
両腕を花道の首に回すと、花道もその腰を抱き上げた。先ほどまでの花道の重さを思い出すと、流川に花道を抱き上げることはできないだろうと思う。やはり花道の力はかなり強いと再認識した。
先ほど逃げ出した花道のベッドに戻り、流川はため息をついた。どうせするのなら、とジーンズを脱ごうとしたら、花道に止められた。花道は流川の靴を脱がしてから、流川のジーンズを引っ張った。相手の服を脱がすところからセックスだと聞いたことがあるけれど、これは子どもの着替えのように流川には思えた。
下着はまあ自分で、とゴムに手をかけると、太もも当たりまで下ろしたところで花道に止められた。流川は寝転がったまま、花道に膝を押された。足は閉じているので、カエルではなく、オムツを替えられている気がした。
花道が膝を押さえたまま動かなくなったので、流川は身を捩ってその顔を見ようとした。そのまま花道が顔を近づけてくる。玉の裏やアナル当たりに何かを感じて、流川はすぐに暴れた。
「ヤメロ!ヘンタイ!」
そんな言葉が口をついて出た。頬がかーっと熱くなり、言葉とは裏腹にとても興奮した。
花道の頭がなかなか離れていかないので、流川は動かしにくい足で花道の後頭部を蹴った。
「いってーな」
「ヤメロっつってンだろ、どあほう」
しぶしぶと花道が体を起こし、流川の下着を脱がせた。もう何も見られたくなくて、流川はうつ伏せになった。
初めてバックスタイルで前立腺を刺激され、いつも以上に興奮した。声は枕が半分は吸い取ってくれる。射精しても、汚れるのは花道のシーツだけだ。
流川が呼吸を整えている間に、花道は準備をしたらしい。アナルに花道を押し当てられて、流川はまた一瞬呼吸が止まった。一度目よりも余計緊張した。
相手は花道なのだ。こういうときは決して乱暴ではないことを十分知っている。だから、怖いことはないのだと言い聞かせる。何しろ、シャワーも浴びてない自分のとんでもないところを舐めるような男なのだ。
「ヘンタイ…」
流川は思い出して、また頬が熱くなった。
ヘンタイを受け入れる自分もヘンタイなのだろう、とおかしく思って、流川は深呼吸をした。
2015. 5. 22 キリコ
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次回更新は、5月29日(金)です。
更新がゆっくりで申し訳ないです…
最初に「地味な話です」と言った通り、地味な感じて続いてます。
うひひw