無 題
暑い時期に広くない部屋で花道と向かい合っていると、より熱く感じる。エアコンをつけて、ふとんを敷いて、豆電球になっていた。そういう経験がないらしい花道にしては、ずいぶんと気が回るのだなと思う。単に客人慣れしているのだろうか。
流川は両腕を組んだまま考えた。
花道の表情は、どう見ても困っているものだ。
もう少しガツガツくるものだと想像していたけれど。
本当はこういうことをしたくないのかもしれない。結婚までとわざわざ口にしたくらいなのだから。
気が変わらないうちに、と言ったのは、花道自身の話なのか。
それにしても。
「オレも何やってんだろな…」
この状況を不思議に思う。
花道の家に来るのは二度目だ。一度目はエイプリルフールだった。あれ以来、花道に対して以前と違った対応をしている自分だ。
「キライじゃない」
それは確かなのだろう。キスまで想定していなかったけれど。
花道は両ひざの腕を突っ張って乗せたまま動かない。それほど長い時間ではないけれど、流川は待つことに飽きてきた。
「桜木」
「はっハイ」
花道の背筋がピーンと伸びて、流川は肩の力が抜けた。
「のどが渇いた」
急に賑やかな足音が聞こえて、流川は正座を崩した。自分もやはり多少なりとも緊張していたのだろうか。それほどではなくても、いつも通りではないのは確かだった。
コップの麦茶を一気に飲んで、花道に突き返した。そのときに、小指が花道の手のひらにぶつかった。
ふと花道が小さく動いたのを見て、空気が変わったのを感じた。
花道が以前のように、両肩をがっしりと掴む。また声が出そうなほどきつかった。
じっと視線を合わせていると、力強い目の花道が確認できた。
今日はゆっくりなんだなと感心しながら、花道の動きをじっと見ていた。
唇が触れそうなときに目を閉じると、花道が息をのんだ気がした。
じっとしたまましばらく触れ合わせていた。
キスはできる。気持ちいいとも感じる。それはお互いが思っていることだった。
「この先って…」
どうすればいいのだろうか。
やり方の問題ではなく、どこまで進むべきものなのか。
「どーしてこーなった」
花道にもよくわからなかった。
けれど、目の前にシャワーを浴びた流川がいて、どうやらそういう気らしいのだ。
「オレのこと、フッたくせに」
おかしいと思う。その上、花道は男の体には興味はないのだ。
キスはできる。そこまでならいいと思っている。
それにしても、キスの間目を閉じる流川の表情はやわらかい。うっとりとしているように見えるから不思議だった。
花道はその顔に勇気をもらい、流川を勢いよく押し倒した。
「イテッ」
小さな抗議の声が聞こえても、花道は動きを止めなかった。
こうなったら流れに乗って、とやぶれかぶれな気持ちになった。
少し眉を寄せて見上げてくる流川にキスをすると、また瞼を閉じたのが見えた。
頬を伝って耳に唇を寄せてみる。息を吹きかけるのか、くすぐるのか、匂いを嗅ぐものなのだろうか。いろいろ考えてじっとしている間に、流川がクスッと笑った。どうやらくすぐったかったらしい。
この距離でその笑顔は反則だ。
花道の体が一瞬熱くなった。
目を閉じて花道の呼吸を皮膚で感じると、ふわふわした気持ちになった。瞼を開けると花道がふと視線を寄越してくる。上からじっと見降ろされて、花道の大きな手のひらが自分の肩を掴む。ふとんの上でこんな感じだ。ああセックスってこんな感じだよな、と流川はしみじみ思った。
そのとき、流川の体も熱を少し持った。花道自身にではなく、シチュエーションに興奮した、と自分で分析した。
花道の口が乳首の上を通って、体がびくりと反応した。
ただ触れられるのとこんなにも違うのか。
流川は無意識のうちに、花道の背中に両腕を伸ばした。
花道の背中は汗をかいていて、やはり熱いんだなと思う。手のひらが汗で濡れても気にならなかった。赤い髪に指を絡ませると、エイプリルフールのときを思い出した。あのときは、こんなときが来るとは想像もしていなかった。
たくさんキスをして、手のひらで互いを撫でさする。こういう状況になったら、無言のまま静かに進んでいった。
花道は流川のバスタオルをゆっくりと剥がし、流川は花道のTシャツを脱がせた。
まずは花道が流川を口で含み、そのあと流川が自然と交代した。
ものすごく勇気がいったけれど、まさか本当に自分にできるとは思わなかった。
順番に荒い呼吸を整えたあと、触れ合うだけのキスをした。
時間としては長くなかったけれど、濃厚な夜になった。
2017. 11. 1 キリコ
SDトップ NEXT
また12月1日に無事にお会いできますように!