無 題 

 

 
                              

 流川がアメリカに来て2年半ほど経った。その間、一度も日本に戻っていない。日本からの連絡も少しずつ減っていき、アメリカで同じように頑張っている知り合いとも特に連絡を取り合ってはいなかった。
 そんな中、花道から初めて手紙が届いた。
 ものすごく驚いて、突然頬が熱くなった。
 アメリカにいる間、花道を思い出すことは少なくなってきていた。噂でアメリカに来ていることは知っていたけれど、詳しい住所は知らないし、花道が日本にいる間にもこちらから連絡したこともない。電話もしたことがないので、声も忘れそうな気がした。
「…それはねーか…」
 あの賑やかな声はすぐに頭に浮かぶ。手紙の内容もその声で再生された。
 思ったよりも綺麗な字を書くのだな、と新たな発見があった。
 日本にいたとき、まだ高校二年生だった自分たちは何だったのだろうか。付き合っていたわけではない。日本でも電話もしなかったし、出かけたりもない。一緒にケーキを食べたこともないし、コロッケはどこにカウントされるだろうか。友人同士ならそれほど不思議な事ではなかっただろうけれど、あいにく自分たちは友人でさえなかった。
「わかんねー…」
 未だにわからない。
 ただ、思い出しはしないけれど、今でも花道に関しては少し落ち着かない気持ちになる。
 懐かしい、と感じたことは、素直に認めた。

 流川は今、4人でルームシェアをしている。他のスポーツを目指したり、大学生だったり、何やら芸術系を目指す者だったりする。生活時間も様々で、仲は良くも悪くもないと思っている。不満がないわけではないけれど、それなりに生活できていると自負していた。
 花道の手紙をベッドに広げて、流川はその前に座り込んだ。
 手紙は、流川のいるチームを見学に来ること、せっかくだからメシでも、という内容だった。
「メシねぇ…」
 そういえば、花道と二人でご飯を食べたことがあっただろうか。
 やはりコロッケしか思い出せなかった。花道の部屋でもお茶を飲んだくらいだった。
 なぜコロッケなのか。自分がなぜあんなことをしたのかわからなかった。それさえなければ、二人とももっと距離を取ったままの関係だったのではないだろうか。
「ま…いっか…」
 実際に、そんなことをする関係になってしまったのだ。今更どうこう考えても仕方がない。
 流川は目を閉じて大きくため息をついた。
 アメリカに来る直前に、急に二人の仲が進んだ。なんとなく進めたのが自分の方だった気がして、流川は眉を寄せた。それでも、花道も少しの躊躇のあと触れてきたのだから、お互いさまだったと思いたい。
 初めてそうした後、実は流川は夢中になった。
 花道自身にではなく、体を重ねることに。
 もっとも、今ならわかる「男同士の挿入」などはなく、触れることや口を使っただけだ。
 それでも十分おかしいと、今なら思うのだけれど。
「若気の至りってヤツかな」
 アメリカ出発までの短い期間、毎日花道の家に立ち寄った。距離的には自宅よりはるかに遠いし、とても暑かったのを覚えている。最後の方は、シャワーも浴びなかったこともあった。
 濃厚な期間だったとは思うけれど、アメリカと日本という距離が出来たとき、二人ともお互いが知り合う前かのように知らんぷりだった。流川も湘北のその後の試合については聞いていたけれど、花道個人の成績については興味がなかった。成長しただろう。むしろ成長していなかったら許せないとさえ思った。
 
 その花道を実際に見たとき、流川は大きく目を見開いて動くことができなかった。そんな自分にかなり驚いた。広い体育館の中で距離があるところにいて良かったと心から思った。
「もしかして…動揺してる…?」
 手紙どころではない。実物を見ると、懐かしいという気持ちだけではなく、よくわからない感情が沸き上がった。ダッシュの後の心拍とも違う跳ね方に心がビックリした。
 まだ話しかけられる距離ではない。こちらはまだ練習中なのだ。花道が椅子に座って、じっと見ているのを感じた。
 流川は確かに成長した。そのことに自信はあったけれど、花道の目にどう映っているのか気になった。自分に追いついて、倒すためにやってきたのだろうか。いずれにしても、ここまで来ているのだ。花道も相当努力したのだろうと思う。
 練習に集中しているときは気づかなかったけれど、ふと見ると花道はいなくなっていた。お偉いさんと話しているのだろうと想像する。知らないうちに追い出されたということはないだろう。視界から花道が消えて、流川はなぜかホッとした。
 それでも、練習が終わって帰ろうとするときには自然と花道を探した。詳しい待ち合わせなどしていなかったけれど、たぶんそういうことなのだろうと思っていた。
 流川がどれほどキョロキョロ首を動かしていたか、流川自身は知らなかった。
 

 

 

2017. 12. 1 キリコ
  
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流川の回想?だけで終わってしまいました(汗)
なかなか書く時間が取れません…

1月1日かな…年末か、三が日までには…
更新したいと思っております。