無 題
花道が穏やかな表情のまま、まっすぐに流川の方を向いた。
「なぁルカワ」
「…なんだ」
「オレのこと…スキって言ってみて」
流川は驚きで固まった。聞き間違いではないかと自分を疑ったが、たぶん違う。花道は笑顔のような表情なのに、目だけはとても真剣だった。いつものように「はぁ?」と反応することすら出来なかった。
「な……なんで」
「オレ、昨日誕生日だったから」
「…それで?」
「エイプリルフールはウソついていい日だから」
「…わけわかんねー」
花道の言うことがわからなくて、流川は軽く吹き出した。おかげでやっと落ち着いて呼吸が出来た。
ずいぶん動揺したんだなと自分で驚いた。
「そんなバカらしいこと、なんでしなきゃなんねー」
花道が「むむっ」とうなってから腕組みをした。
「はて…なんでかな…なんとなく」
腹が立つくらい、花道は涼しい顔をしていた。先ほどまで熱意のこもった瞳をしていた気がするのに。
「もうさ…次いつ会えるかわかんねーだろ?」
「…だから何だってんだ…」
そこまで言うのなら口にしてみてやろうという気になった。ただ言葉として発すればいいだけのことなのだ。花道の誕生日を祝う義理はないけれど、それが望みであり、それで満足するのなら。
「オレは…」
流川は組んでいた足を下した。さりげなく、サラッと言おうとした。
それなのに、それ以上言葉が出てこなかった。
少し俯いて、目を見開いた。
「…あれ…?」
単なる二文字だ。ただそれだけなのに。何の思い入れもない言葉だし、これまで一度も使ったことがなかっただけなのに。
それから部屋の空気が動かなくなり、しばらく沈黙が流れた。
「そういえば…話は変わるけどよ」
花道の明るい声で、流川の呪縛は溶けた。
「…え?」
先ほどの話題はもういいのだろうか。姿勢を起こした流川の方を見ずに、花道はまた話し続けた。
2018. 1. 3 キリコ
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変なとこで終わっててすみません(汗)
また2月1日に続きをアップします〜