無 題 

 

 
                              

 二人には小さく感じるベッドの上で、無言のままお互いに触れた。
 以前よりも、よほど丁寧で情熱的だとお互いが感じるほどだった。
 部屋の中はまだ肌寒くて、上半身は服を脱がずにいた。
 ゆっくりとした動きで花道が腕枕をすると、流川は素直に頬を乗せた。
 そして、花道の呼吸の動きを見ながら、すぐに眠りに落ちた。

 流川の寝息を聞きながら、花道は大きな深呼吸をした。
 薄暗くした部屋の中でも、黒い髪はわかる。ずいぶん以前に流川がそうしてくれたように、花道は頭を撫でてみた。
「この体勢じゃ…ムリ」
 自分でクスッと笑って、ギュッと目を閉じた。
 やっと会えた。
 ここまで来ることがどれほど大変だったか、どれほどの勇気が必要だったか、流川にはわかるまいと思う。
 アメリカに来て一年、バスケットに邁進しながら、あとは流川と再会する方法だけをひたすら考えてきたのだ。
 流川が花道をどう思っているかがわからないし、想われているという自信もなかった。興味本位で男同士でやってみただけだったかもしれないし、ただ何となく状況に流されただけかもしれない。そんな男ではない、と思うけれど、実際にそうしていたのだから、理由はわからない。
 流川がアメリカに旅立ったとき、花道はそれほどショックを受けなかった。バスケットに関して以外は。
 これで妙な関係が終わるとさえ思ったものだ。
「あのバカ…ホンキにしやがって」
 花道のウソを、流川は本心だと思っていたようだ。
 それがなぜだかわからない。
 わからないけれど、流川の方が花道に吸い寄せられるように近づいたのだ。
 花道はそう思っている。
 だから、花道はただ流川のことをバカにしつつ、けれどなぜか無下にもできなかった。
 結局、体まで触れ合うほどまでになったのだ。
「オレもちょっとおかしかったよな…」
 そんな花道が、高校を卒業してアメリカに来てから、急に流川が恋しくなった。
「なんでだ…?」
 大嫌いで憎たらしくて、自分より先にアメリカに行ってしまうような男だ。
 アメリカに来るときに、絶対に流川の近くは嫌だと安西に言った自分を呪った。
 始めはホームシックなのかと思ったけれど、流川はホームシックの対象にはならないはずだ。もちろん英語の世界で日本語で話したい欲求があるせいかもしれないとも思う。それならば、相手は流川に限ったことではないはずだ。実際、流川と話していても、たいして会話にならないか、ケンカの方が多いのだから。
 流川に会うために、花道は大きな賭けに出た。
 いろいろ話して、ウソも交えて大きな態度を取った。それで流川の反応を見る。そんなことを綿密に計画したのだ。
 流川の反応は、花道の期待通りだった。
 むしろ、それ以上だったかもしれない。
「オメーやっぱりオレのこと、スキだろ」
 流川の黒髪に頬を乗せながら、小さな声で呟いた。
 誰かに想われることに慣れていない花道でも、はっきりと感じた。


 朝早く、流川は尿意で目覚めた。
 ものすごく寝苦しい思いをしながら、いつも以上に温かかった。
 目線だけで状況を探ると、花道の顔が見えた。少し口を開けて大きい寝息を立てている。その花道の脇あたりにくっついて、流川は眠っていたようだ。
 しばらく花道の寝顔を見つめた。思えば、あまり見たことがなかった。日本では泊まったりする仲ではなかったから。
 目を閉じると、花道の汗臭さを強く感じた。自分もきっとそうだ。ろくにシャワーも浴びず触れ合って、歯も磨かないまま眠ってしまった。それでも、そんなことが気にならないくらい、安心している自分がいた。
 不思議だなと首をかしげながら、流川は起き上がった。
 ぼんやりとシャワーを浴びながら、なぜだか気持ちがすっきりしていることに気が付いた。
 再会したばかりのころは妙に落ち着かなかった。動揺していると思いたくなかったけれど、きっとそれだと思う。
 花道と初めて面と向かってゆっくり話したように思うのに、内容は意味がなかったのではないか、と今なら思う。その会話よりも、触れ合った時間の方がいろいろとはっきりわかった気がしたからだ。
「大嫌いだったって言ったな」
 それははっきりと覚えている。
 その後、訂正は今のところ入っていない。
 けれど、やっぱりわかる。
 昔、花道が自分を好きだと言ったのはウソではない。
 どうしてそう思うか説明できないけれど、間違いないと思う。
 そして、自分の花道への想いを、認めざるを得ないと覚悟した。
「言わねー…ぜってー言わねー」
 言葉にすることなどできない。
 けれどたぶん伝わってしまった気がする。
 触れ合うことは、そういうことを体で伝えることだと初めて知った。
 自分たちは、言葉よりも体を使ったコミュニケーションの方が得意だった。
 いつから好きだなんてわからない。以前花道が言った通り、気が付いたら好きだったのだから。
 

 

2018. 4. 1 キリコ
  
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花道お誕生日おめでとう!
今日で終わらせようと思ってましたが、
書ききれませんでした(汗)
また5月1日に続きをアップします〜