無 題
冬の選抜に向けて、湘北高校バスケ部は短い合宿を行った。その合宿に、花道は参加することができた。
バスケ部全員で合宿というものが初めてで、花道はかなり期待していた。古い合宿所も気にならず、予定を組まれた練習試合でも自分なりの全力を出せたと思った。
「ちょっとインターハイを思い出すなァ」
あの時とメンバーが少し違うけれど。
明日の練習試合を最後に合宿も終わりだというその日の夜、花道はなかなか寝付けなかった。
疲れているはずなのになかなか眠りに落ちることが出来ず、ずっと自分のプレーを思い返していた。
まだ完全には戻っていない。
後退したままで、流川に追いつけるのだろうか。そればかり考えていた。
短い睡眠の後、真っ暗な中で花道は尿意で目が覚めた。
「めんどくせー…」
部屋の中がひんやりしているせいだと舌打ちする。花道が周囲の忠告を無視して薄着で寝ていたせいだろう。
花道は上半身を起こし、赤い髪をガシガシと掻いた。
暗い合宿所の廊下は、薄暗い電球があるだけだった。
自分の足音が響くのが嫌で、花道はできるだけ静かに歩いた。
「べ、別に怖くなんかねーけどよ…」
独り言さえ、小声になった。
少し離れたトイレにやっとたどり着いたとき、花道の耳に小さな声が聞こえた。
「っひっ」
よくわからない声が出て、慌てて口元を抑えた。
一瞬オバケを連想したけれど、どうやらトイレに先客がいるらしい。
心の中で舌打ちしていたとき、花道が呼ばれた気がした。
「…ん?」
サクラギだったような、サクラだっただろうか。
そして、どう聞いても、トイレでしているらしいのだ。
「うわーーマジか…」
これは仕方がないだろうと思う。集団生活なのだから、もよおしたらトイレでするしかない。
けれど、できればこんなときにかち合いたくはない。
「…ダレだ…」
手を洗う水音が聞こえたとき、花道は思わず壁に寄った。隠れる時間はなかった。
トイレから出てきた顔に、花道は意外な思いがした。
「ルカワ…」
呼ばれた流川はかなり驚いたようで、花道が見たこともない表情だった。誰もいないと思っていた深夜に、このタイミングなら気まずいことをしていたことがバレているだろうから。しかも、相手が花道だから尚更だろうと花道自身思う。
流川もやっぱり普通の男なんだな、と花道はおかしなことを考えていた。
バスケット以外、何も興味なさそうなのに。
驚いて立ち止まっていた流川が動こうとする気配に、花道は流川の腕をつかんで阻んだ。
「ちょっと顔かせよ」
建物の入り口付近にある倉庫のようなところに、花道は流川を引っ張り込んだ。そして、流川もそれほど抵抗しなかったなと後で気が付いた。
薄暗い廊下の電気がかろうじて入るくらいの暗い部屋でも、流川が冷たい目をしているのがわかる。ずっと無言だけれど、落ち着かないのは事実だろう。花道は少しからかってやろうと決めた。
「オメーよ…ヤッてたろ?」
流川はピクリとも動かなかった。
「ま、別に不思議でもねーけどよ…やっぱバレたら困るんじゃねーの?」
花道の予想に反して、流川の顔が少し青くなった気がした。
「別に…」
「ま、そのさ…口止め料っての? そーいうの、トーゼン考えてるよな?」
「…テメー…」
「ラーメン」
「…は?」
「ラーメン一杯奢るってどうだ? あ、二杯にしとく!」
花道は思わずクスッと笑ってしまった。深刻そうな声を出したら、あの流川が少しビビったのだ。けれど、脅かすネタとしては、あまりにもひどいと自分でも思った。男なら仕方のない生理現象なのだから。
ラーメンくらいなら、たぶんちょうどいい。そう思ったのだ。
先ほどまで固い表情だった流川が、両目を見開いていた。
じっと花道を見つめてから、ふっと小さく笑った。
「え、笑ったのか? ソレ?」
花道の方がビックリした。
次の瞬間、花道は緩い衝撃で倒された。一段と暗く感じたところに、流川がタオルをかぶせた。
「はっ? ナニすんだルカワ」
ちょっとムッとして起き上がろうとするよりも前に、花道の下のジャージが脱がされた。
外の冷たい空気に触れて、自分自身がヒュッと縮こまったのがわかった。
それなのに、すぐに温かいものに包まれて、すぐに目を閉じた。
「え、ナニコレ…」
声を出そうとすると、喘ぎ声になった。
ああ、なるほど。これ、フェラチオか。
目を閉じたままでいると、与えられる快感をはっきりと感じた。
何とか流川を止めようと口を開くけれど、ちゃんと言葉になっていただろうか。
そのうち、一度外された温かいものにホッとしてすぐ、温かいきついものを感じた。
正直なところ、何が起こっているのか、花道はすぐには理解できなかった。
花道は戸惑いながらもすぐに射精した。
目尻から涙が流れるのを感じながら、耳から流川の動きを探った。
花道の下半身を優しい手つきで拭っている。何も言わないし、電気もつけないままだ。
やがてパタンというドアの音が聞こえて、流川が出て行ったのがわかった。
それでもしばらく、花道は動けなかった。
2018. 10. 18 キリコ
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