無 題 

 

 
                              

 最後の練習試合が終わったとき、花道は流川に怒られた。
「ふざけてんのかテメー」
 怒られたというよりは、ただ叱責されただけだったけれど。
 流川だけではなく、先輩たちからも指導が入った。
 その日、花道は少し自分を見失っていた。
「だ、ダレのせーだっつーの!」
 自分一人でボールなどの道具を体育館に運んでいた。以前の自分なら乱暴に放り出したかもしれないけれど、今の花道は大事にすべきことを理解している。それでもほんの少しだけ道具に八つ当たりした。
 なぜ流川はいつも通りなのだろう。
 特に避けられているわけでもなく、すり寄られたわけでもない。全くいつもと変わらない流川だった。
 昨夜というか、今朝方だったけれど、あれは夢だったのだろうか。
 ぼんやりしながら花道は帰宅して、荷物の中に見慣れない白いタオルを見つけた。
「やっぱ……ユメじゃねーよな…?」
 これは流川のタオルだ。間違えて持ち帰ったわけではない。
 自分の部屋でじっくり思い出してみて、花道は初めて頬が熱くなった。
「え…待てよ……やっぱ…ホントに…」
 言葉にすることが無性に恥ずかしかったけれど。
 あれは本当にフェラチオだったのだろうか。
 そして、その後のアレは何だろう。
「口じゃねぇ……入れた…のか?」
 どこに、という単語が思い出せないくらい動揺した。
「ちょっ!どうなってんだ!!!」
 大声を出して両手で顔を覆った。

 その夜はまた眠れなかったけれど、2、3日もすると花道もようやく落ち着いてきた。
 学校内で遠目に流川を確認したとき、ほんの少し心拍が跳ねた。
 学ランを着た流川と、あの日の流川とは重ならない。
 今でも信じられない思いだった。
「アイツ……ホモなのか?」
 そして、それは別にどうでもいいのだ。自分はそうではないし、理解できない上に気持ち悪く感じる。そして、晴子が可哀想だなとも思った。
 けれどそれよりも、ものすごく手馴れていることの方に驚いた。
 これはラーメンどころではない大きな秘密を知ってしまったのではないだろうか。
 けれど、とても口外する気にはなれないのだ。
 花道はもっとロマンティックな初体験を夢見ていた。出来れば結婚式を挙げてから、立派なスイートルームなどで。
 だから、男相手は初体験ではない、と言い聞かせていた。
 自分の意思ではない行為をしたことが、ショックだった。


 次の土曜日の夜、花道と流川は体育館で二人きりになった。やはり流川は以前と何も変わらない。
 花道は、流川にタオルを返してその反応を見ようと決めた。
 顔を洗う流川に向かって、花道は流川のタオルを差し出した。
 流川はどう解釈したのか、そのタオルで顔を拭った。
「ち、チガウ」
 花道は慌ててタオルを引っ張った。
 タオルをギュッと握りしめる花道を見て、流川が小さく「ああ」と呟いた。それは花道にも聞こえた。
 ゆっくりと花道は手首を掴まれて、体育倉庫に誘導された。その手が離れても、花道は流川の後について歩いた。
 何も言われないけれど、入ってろという指示された気がした。
「エラそうに…」
 弱々しい声で花道は毒づいて、マットレスに腰かけた。
 なぜか流川は入口から踵を返したので、花道一人だ。シーンとした体育館で、花道は少し我に返った。
「な…ナニやってんだ…オレ…」
 無意識にタオルを握りしめて、流川を待っているのだ。
「おかしーだろ…?」
 流川が戻ってくる保証はない。もしかしたら、もう帰ってしまったかもしれない。
 この寒い中で、それでも花道はしばらくじっとしていた。
 やがてこちらへ向かってくる足音が聞こえて、花道は背筋を伸ばした。
「き、来た!」
 間違いない。流川だ。
 体育館の電気が消され、倉庫の中はあまり見えなくなった。
 花道はマットレスに仰向けに寝て、タオルを顔にかぶせた。
 ゆっくりと近づいてくる足音に、花道はゴクリと唾を飲み込んだ。
 花道のトレパンを脱がされたとき、流川の手が止まったのを感じた。花道自身、顔から火が出そうだった。
 分身が期待一杯で完全に勃起していた。
 ショックだ何だと言っても、あの気持ち良さには抗えなかった。
 何も言わないまま行為に入った流川にホッとさえした。

 

2018. 10. 18 キリコ
  
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続きは、11月1日(木)にアップしたいと思っています。