無 題 

 

 
                              

 それからはなんとなく、本当になんとなく、毎週土曜日がそういう日になった。いつも最後まで居残り練習をしていたので、不自然ではなかった。
 花道は何回目かまではソワソワ落ち着かなかったけれど、少し状況になれてくると、振り返る余裕もできてきた。
 5回目の帰り道、花道は自分がかなり声をあげていたことに気が付いた。
「うわーー」
 頭を抱えながら、自分の荒い呼吸や言葉を思い出す。あまりにも正直だった。そして、「ルカワ」と呼んでいた。
 本当に流川なんだろうか、としばしば考えて、心では半信半疑だ。けれど、体はちゃんとわかっていて、匂いや体の重さ、そして状況からも、流川しかいないのだ。
 6回目には、とにかく声を出さないことだけに集中した。
 7回目で、流川が無言なことに気が付いた。ただ、花道の上に腰を下ろしたときだけ、ため息をついている。いつもの冷めたものではなく、どちらかというとうっとりとした吐息のような、顎をあげている姿が見えるような気がした。
 けれど、全く興奮していないようなのだ。一度、花道が思わず腰を揺らしたときは、苦しそうな声が聞こえた。それ以降、花道はただじっとしているようにしている。花道が射精するまで、流川もじっとしたまま、じわじわと締めたり緩めたりしてくるのだ。
 そうなると、流川が何のためにこの行為をしているのか、花道はわからなくなった。
「ゼンゼン気持ちよくねー……のか?」
 ではなぜ、するのだろうか。
 そして、7回目はとても寒い日だった。

 次の土曜日に、花道は居残り練習の後、声をかけた。こういうことをするようになってから、初めてのことだった。
「う…ウチ来ねー?」
 まっすぐに視線を返したまま、流川が首を傾げた。
「ああ…」
 納得しただけなのか、返事なのかわからないまま、流川はスタスタと帰る準備を始めた。
 本当にしゃべらない男だ、とイライラしながらも、やっぱり土曜日が楽しみで、いろいろ疑問に思いながらも止める気は起らなかった。
 二人乗りも初めてで、花道が流川を招くのももちろんこれが最初だった。
 誰もいなかった部屋は外と同じ気温だったけれど、ストーブをつけるとすぐに温かくなった。
「ちょっとトイレ」
 流川が小さな声で出て行って、花道は新たな疑問が浮かんだ。
 そういえば、いつも行為の前にしばらく消える。部室に物を取りに行っているのだと思っていたけれど、確かにそれにしては時間がかかりすぎていた。
 そしてもう一つ気づいた。流川は2回目からは花道にコンドームをかぶせていた。あれは流川が買ったのだろうか、いつもカバンに入れているのだろうか。あの2回目は、花道がたまたま声をかけたからだったけれど、実は流川も準備していたということだろうか。
 部屋着に着替えながら、花道はドアの方をじっと見つめた。
 自分の顔にタオルを乗せて行為が始まると、花道はもう何も考えられなかった。
 いつもより興奮した。きっと自分の部屋でしているからだ。
 終わった後、流川がテキパキと片付ける。何もかも残らないかのように拭い、一つにまとめて持って行っていた。
 その処分をどうしているのかさえ、花道は知らなかった。
「手伝う…方がいいのか?」
 あの時間に声をかける方が不自然な気がして、やはり躊躇う。けれど、何もかも流川任せで良いのだろうか。
「まぁ……モンク言われてねーし…」
 気遣いたい相手ではない。大嫌いな男なのだ。自分にそう言い聞かせた。
 
 次の週末、今度は流川が話しかけてきた。
「ウチでもいいか?」
 突然だったので花道はすぐに理解できず、先週の流川のように首を傾げた。
「あ……ハイ…」
 驚いたけれど、好奇心がすぐに沸き上がった。
 流川の部屋というものに少し興味があった。
 到着するまで気が付かなかったけれど、流川の家は家族が在宅していた。夜も遅めの訪問ににこやかに招き入れられ、花道はずっと頭を下げっぱなしだった。
 流川はまた黙ったまま部屋に案内して、しかもすぐに出て行った。
「いつものあの時間か…」
 それはわかる。けれど、電気もつけないままの初めての部屋で、さすがの花道も落ち着かなかった。ドアを背に立ったまま、電気をつけるかどうか悩んだ。
 流川の部屋だなと思うくらい、流川の匂いがした。きっと多くのファンがこの部屋を見たがるだろう。今の花道にも見えないけれど、実際に招かれたのは自分だ。妙な優越感を感じながら、花道はようやくカバンを下した。
 どこに立っていればいいのか、座ってよいものか。いつもなら、タオルを乗せて寝そべって待つけれど、なんとなくそれもできない。階下から家人の気配を感じるせいもある。
「この状況で……」
 ゴクリと唾を飲み込んだところで、ドアが開いた。
 立ったままの花道に驚いたらしい流川の表情が見えた。廊下は少し明るかった。
「なんで寝……」
 そこまで呟いて、流川も部屋に入ってきた。
 なぜ寝てないのか、流川はそう言いたかったのだろうか。寝るといっても、流川のベッドの上しかない。特別遠慮したわけではないけれど、なんとなく気まずかったのだ。まだ上着も脱いでいなかったことに気づき、花道は慌てて上下とも脱いだ。
 手首を軽く引かれ、ベッドに押し倒される。
 なんだ本当にベッドに上がってよかったのか。
 枕に頭が当たると、一層流川の匂いが強くなった。
 自分の部屋でしたときよりも、もっと強く興奮した。
 いつもの流れの中で、花道はその日フェラチオの段階で我慢ができなかった。
「ルカワ」
 そう呼びながら射精した。荒い呼吸が止まらなくて、耳がキーンと鳴っている気がした。
 急いで身を起こして自分の腹部を拭った。すでに流川が拭こうとしていたことに後で気が付いた。
「あの…わりぃ…」
 勝手に射精をしてはいけない気がした。
 花道は急いで自分のモノをしごいた。
 真っ暗でも流川の視線を感じる。手の刺激よりも、そういう状況に興奮した。
 流川がコンドームをつけたことを確認して、花道はまた顔にタオルを乗せた。

 

 

2018. 11. 1 キリコ
  
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続きは、11月8日(木)にアップしたいと思っています。