無 題
2月の冷え込みが強い夜、花道の家に二人はいた。こういう時間にもすっかり慣れていて、どちらの家とかトイレの時間など、揉めて滞ることがなかった。
けれどその土曜日に、流川が部屋を出ようとしたところで、花道家の家人が帰宅した。
流川も驚いて固まったし、相手もそうだった。そして、花道もギョッとした。
なんとかお互いに挨拶をして、二人で花道の部屋に引っ込んだ。
しばらく無言のまま、呼吸が落ち着くのを待った。これまでと違うことが起こり、ほんの少し動揺した。
流川がトイレに行こうとしないので、花道はどう促したものか、考えた。もしかしたら、しないまま帰るという選択もあったかもしれないけれど、そのときは花道は思いつかなかった。
「あのよ……ココで…デキねーの?」
流川が何を準備しているのかわからない。わからないけれど、実はほんの少し想像できた。
それからまたかなりの時間動かなかった流川が、小さく舌打ちをして服を脱ぎだした。
花道は部屋のテレビをつけて、音量を大きめにした。
衣擦れの音というヤツか、と古文か何かで習った言葉を思い出した。それが正しいかどうかもわからないけれど。テレビの明かりの中だけでは、流川ははっきりとは見えない。ただ服を脱ぐ音や、流川が自分の体に触れている音が聞こえる気がした。
「ふっ」
流川の吐息に、花道はビクッと体を揺らした。慌ててテレビの音量を上げた。
クチュッという粘着音も聞こえる。
間違いない。方法はわからないけれど、あの場所をほぐしているのだ。
いつまで待てばよいか判断できないけれど、花道は急いで寝ころんだ。視界をタオルで遮ると、より一層耳が働いた。
その日、花道はタオルを少しずらして、初めて自分の上に乗る流川を見た。テレビの明かりが流川を照らし、場面が変わる度に白いシャツの色が変化した。
顎をあげて、たぶん目をつぶっている。
本当に流川としてるんだな、としみじみと思った。
それからは、花道が「ここでいーじゃん」といって、流川の準備から一緒にいるようにした。特別それを見たいわけではないけれど、1人で待っている時間がなぜだかおかしなものに感じるようになったからだ。
花道も、寝ころんでタオルを乗せたら、自分のモノをしごく。
そういう流れでいいじゃないか、と開き直るようになった。
「週に一回かぁ…」
ぼんやりと教室から外を見ながら、知らないうちに呟いていた。
それ以上は負担になるだろうか。今更もっとしようとは言えなかった。
毎回刺激が強いけれど、グッと意識を保って、少しずつ流川を観察し始めていた。
片手が花道の下腹部に置かれることはあっても、倒れこんでくることはない。花道に乗っている部分以外は、触れないようにしているのだろうか。
そして、3月に入った頃、花道は遅ればせながら気が付いた。
流川が興奮していないのはわかる。その割には、花道に当たらないのだ。元気のない流川自身が、花道の下腹部に乗りそうなものなのに。
「…じゃねーかな?」
どうぞ乗せてくださいとは言わないけれど、そんなに遠慮するものなのだろうか。
あまり考えないようにしていたけれど、流川は何のためにこんなことをしているのだろうか。
花道とこうしたあと、1人でするのだろうか。
自分だけ気持ちよくなって良いものなのか。けれど、流川の声は決して苦痛のものではないと思う。
「わっかんねーな……」
けれど、花道も止めようとは思わなかった。
4月1日に、花道は流川を誘った。土曜日ではなかったからだ。
流川がすぐに頷いたので、花道は少し舞い上がった。
16歳の誕生日の夜を流川と過ごすことを選んだ自分を不思議に思った。
「まー…ケーキとかあるわけじゃねーけどよ」
実際、花道の部屋に来た流川はいつも通りだった。今日が花道の誕生日だと知らないかもしれない。それでも、花道はなぜかウキウキしている自分に気が付いた。
その夜、流川が挿入し終わってため息をついたとき、花道は初めて起き上がった。
「えっ?」
意外と可愛らしい驚きの声に、花道は「ふっふっふっ」と声に出して笑った。
思わず、という風に流川が花道の肩に両手を置いた。バランスが悪いのか仰け反ろうとする流川を、花道は両腕を回して支えた。ほんの少し抱き合っているように見えた。
これまでと違った角度になり、流川が微調整しながら足を動かす。片方の手を後ろについて、じっと花道を見ているようだ。
花道の下腹部に、元気のない流川が当たる。
これは元気になることがあるのだろうか。
「苦しくねー?」
小さな声で尋ねると、流川が首を上下に振った。
ここでインポですかと聞くことも出来ず、そしてすぐに本気になった流川に射精させられてしまった。
そうなのだ。
いつも、流川のペースなのだ。
花道は動くことができない。腰を振ると流川が辛そうにするから。
それでも今日のように、少しずつ自分のやりたいようにしてみようと決めた。
これまで想像したことのない誕生日に、花道は心から満足した。