無 題
練習中や試合でも、花道は流川の動きがよくわかることに気が付いた。
自分自身が上達したせいだ、と喜んだ。おそらくそれもあるだろう。
けれど、流川の呼吸や雰囲気で機嫌もわかる気がするのだ。
「オメー…もーバテてんのか」
誰も近寄るなという空気を出しているときに、あえてからかってみる。心底嫌そうな表情をするのだ。
他にも、言葉ではうまく説明できないけれど、チームメイトの動きに不満がある様子がわかる。きっと一年前の花道には言いたいことが山ほどあっただろう。けれど、流川は初心者とは言ったけれど、グチグチ文句を言ったりしなかった。チームの空気を大事にしているのだ、と理解した。
「けっこーいろいろ考えてんだな…」
指導という形だったり、さりげない一言でアドバイスしている。本当はイラッとしているのに。
意外と大人なのだな、と思った。
そんなことに気づくくらい、花道は流川を見ていた。
そんな流川の様子から考えると、花道との行為に流川は至極満足しているように見えた。
自分は射精しなくていいのだろうか。
あの行為は射精以上に気持ちいいのだろうか。
花道は1人で考えても結論を出すことができないこの疑問を、ずっと考察していた。
こんな日々に終わりが近づくにつれて、より必死で考えた。
流川が2年生の夏が終わったらアメリカに行くことは、ずいぶん前から決まっていたし、花道も知っていた。
「あー…やっぱアメリカ行く前にオレ様と…」
体だけ繋げたかったという言葉を飲み込んだ。
インターハイに行けないと決まったとき、初めて行為の間隔が空いた。それもお互いに何も言わなくても通じた。花道もショックが大きく、しばらく1人でどんよりしていた。
けれど、ふと流川はこういうときどう消化するのだろう、と思ったら、頭の中が流川でいっぱいになった。
会いたい、よりも、やりたい、と思った自分が恥ずかしくなった。
「そりゃそーだよな…」
顔を合わせて嬉しい相手でもない。これほど行為をしていても、打ち解けた気はしない。会話もない二人なのだ。
ただ、行為だけは、二人だけの静かな時間で、花道自身が流川の体を気遣っているつもりなのも本当だった。
アメリカに行く前に、と思い立って、花道は初めて流川の家に電話をかけた。
いつアメリカに旅立つのか、はっきりと知らなかった。
流川が指定したその日は花道の家は誰もいない予定だった。
「泊まってかねぇ?」
花道は想像以上に弱弱しい声が出て驚いた。こんなお伺いを立てるような相手でもないのに。
「わかった」
すぐに返事が来て、花道は文字通り立ち上がった。
ウキウキする気持ちを必死で抑え、これが最後の夜なんだなと言い聞かせた。
せめて悪い思い出だけにはしたくない。
花道はカレンダーのその日を見つめて、ゆっくり考えた。
最後の夜、花道はシャワーを浴びて流川を待った。
そして、流川もおそらくシャワーを浴びてきたようだ。玄関に立った流川から、道中の汗の匂いの中にせっけんが混じっていた。
そのことだけで、花道はとてつもなく興奮した。
いつも、お互いが汗臭かった。それしか知らなかった。
花道は流川の腕を引っ張り、すぐに押し倒した。まだ部屋の電気もついたままで、流川の驚いた顔がはっきりと見えた。
「桜木?」
花道の腕をつかんで押し返そうとする流川の首筋に、花道は鼻を近づけた。
男くさいし、汗もかいている。けれど、知らないせっけんがブレンドされていて、花道の下半身を刺激する。
目を閉じて深呼吸していると、流川に押し戻された。
「電気くらい消せ、どあほう」
流川はそう言いながら自分で電気を消した。
2019. 1. 10 キリコ
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続きは、1月24日(木)にアップしたいと思っています。