無 題 

 

 
                              

 

 明るい中で表情を見るよりも、暗い中での方が慣れていて、相手の呼吸がよくわかった。
 いつも通りの流れで、その日はバックスタイルを花道は選んだ。流川からの抵抗もなかった。
 体位によっては、花道が自分から挿入することになる。そうすると、自分の意思でやっているのだと再確認できた。
 流川の挿入の仕方を思い出しながら、そして流川の息遣いに神経を集中させて、ゆっくりと流川に入っていく。その行為が花道は気に入って、その中でもバックスタイルがいいと思っていた。
 せっけんの匂いや、泊まっていくという状況が興奮剤となって、花道は長くもたなかった。
 花道が呼吸を整えようとしているとき、流川はいつも無言で後片付けをする。花道のゴムを外して拭い、ティッシュのシュッとという音を何回かさせる。それをたぶんビニールの袋にしまっているらしい。いつも用意のいいことだ、と笑いそうになる。
 いつもなら、ここで終わりだけれど、今日はどうするべきなのか。
 流川がそのままふとんに倒れこんだ気配がした。
 もう寝るということなのか。
 これまで一回以上したことがなかったけれど、花道は自分でも驚くほど興奮が続いていた。
 先ほどのように、花道は流川の首筋に顔を近づけた。
 流川がビクッとはねて、花道の肩に手を当てた。
 けれど、強い抵抗はないと判断して、花道は流川の両足を広げようと持ち上げた。
 流川が驚いているのがわかる。たぶん首を持ち上げて、はっきり見えない花道をじっと見ている。
 その視線が理解できるように、花道はゆっくりと行動した。流川の荷物からゴムを取り出し、かなりもたつきながら装着した。自分でするのはこれが初めてだった。
 いつもなら、ここでゼリーやらほぐすやらの準備があるだろうけど、二回目なら省略でいいだろうと判断した。
 流川のフェラチオがなかったのも、これが初めてだった。
 暗い中でも視線が合ったのがわかった。
 けれど、流川は動かないので、オーケーなのだろうと花道は思う。
 ただ、戸惑っているのがわかる。
 花道も、なぜか緊張していた。
 広げた両足に自分の体をゆっくりと進めていく。初めてではないけれど、流川はこの体位を嫌がっていた。今日だけはいいということだろうか。相変わらず何も言わなかった。
 ゆっくりと時間をかけて流川の中に収めると、流川の深呼吸が聞こえる。いつもそうだ。
 花道はまた首筋に顔を近づけた。
「ルカワ」
 耳元で小さく呼んだだけで、流川の肩が縮こまった。
 声にはなっていないけれど、呼吸が止まるかのような、小さな喘ぎ声が聞こえた。
 これまで花道は、流川の体に触れたことはない。今も耳に息を吹きかけるだけだった。
 何度か名前を呼んで、左右に耳にふーっとするだけで、流川の呼吸が荒くなっていく。試合のときとも違う、艶っぽい呼吸だ。
 花道の顎を手のひらで押し返そうとするけれど、これまで感じたことがないくらい力が入っていなかった。
 流川の首が左右に揺れて、花道はそれを追いかけることを楽しんだ。
 たったこれだけで、流川が悦んでいる。こんな簡単なことなのに、なぜこれまで一度もしなかったのだろうか。
 流川が勃起していた。
「やっぱインポじゃねーよな」
 花道の下腹部に流川が当たる。
 花道を受け入れたままでもちゃんと大きくなるのだ。
 そのことに、花道は驚いたり嬉しかったり、複雑な気持ちになった。
 花道が上半身を起こしても、流川の呼吸は荒いままで、片方に首を倒しているらしいことがわかる。
 けれど、しばらくそのままでいると、流川自身の元気がなくなっていくのがわかった。
 花道はかなり勇気を出して、流川の胸元に指を伸ばした。
 いつも着たままのTシャツの中に指を滑らせると、それだけで流川がビクっとする。胸の突起に指がぶつかっただけで、小さく「あっ」という声がきこえた。
「おお」
 花道も驚いてしまい、思わず指を引っ込めた。
 ビデオで観たことがある喘ぎ声とは違って、漏れ出てしまうらしい流川の声は抑えることができない快感を、はっきりと伝えてきた。
 そういえば花道も、最初の頃はよくわからないままに喘いでいたし、流川を呼びながら射精していたのだ。
 そう思うと、流川のこの喘ぎ方はかなり我慢しているのがわかる。
 もっと遠慮なく声を出せばいいのに。
 花道は指先を特訓のように動かしてから、もう一度流川の胸に進んだ。
 やっぱり首を左右に揺らしながら、流川はできるだけ声を抑えようとしている。両手は花道の肩を押し返そうとしていて、たまらなくなったら右手で口元を抑えているらしい。
 一度、両手首を流川の顔の横に抑えてみたけれど、そうすると花道の両手もふさがってしまう。
 まだ、唇で流川に触れる勇気がでなかった。
 首筋とか、胸とかからというのは順番がおかしい気がするのだ。
 かといって、キスするのはもっとおかしい。
 その考えに、花道は動きを止めて、また体を起こした。
 これまで流川は一度もキスしようとしなかった。もちろん花道もだ。
 遠慮しているのだろうか。
「ここまでヤッてるのに?」
 そんな疑問を問いもせず考えていると、流川が自分自身に手を伸ばした。
「はぁ…」
 ものすごくうっとりとした声に、花道はドキッとした。
 男の喘ぎ声だぞと言い聞かせようとしたけれど、花道が待ち望んだ気持ちよさそうな声だった。
 花道はまた胸に指を這わせて、流川の様子を探った。
 たぶん唇を噛んでいるような「ん」という声が続く。呼吸が一層荒くなって、射精が近いこともわかった。
 乳首を押しながら、「ルカワ」と呼ぶと、「ヒッ」という悲鳴のような声が聞こえて、花道の頬が崩れた。意地の悪い自分が出そうになった。
「桜木」
 少したどたどしい呼び方をしながら、流川は射精した。
 そのときに花道は強い収縮を感じて、少し遅れて射精した。
 初めてみる流川の呼吸を、花道は耳元で聞いていた。
 そして目を開いたとき、ようやく思い出した。
 合宿所で流川がトイレにいたとき、自分の名前のようなものを聞いたのだ。
「あれ…ってことは…」
 やっぱり流川は花道のことが好きなのだろうか。
 しばらく顎をあげたまま荒い呼吸をしていた流川が、花道の首に腕を回して引き寄せた。
「桜木」
 ギュッと指に力を込められて、花道の胸は高鳴った。 
 

 

2019. 1. 24 キリコ
  
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続きは、2月7日(木)にアップしたいと思っています。