無 題
花道は二学期に入ってから、主将らしく振る舞った。自分では頑張ったと思う。自主練習も熱心にこなし、少しでも技術をあげようと努力していた。
けれど、ふとしたときに足りない存在を意識してしまう。流川がボソッと呟いていたのはアドバイスに近かったのではないかと今なら思える。当時は「うるせー」とか「余計なお世話」とばかりに喧嘩していたけれど。
潮の味がするキスだった。
そればかりを思い出した。
あれほど「やりたい」と思っていたけれど、流川がいなくなってしばらくは、あまりそう思わなかった。
遠く離れてしまったことを実感し始めてから、悔しさがこみ上げてきた。
なぜ流川はアメリカに行って、自分はまだ日本にいるのだろうか。
頭ではわかっていたはずの実力の差を、目と肌で感じた。
いつ追いつけるのか、追い越せる日はくるのだろうか。
そんなことを考えながら、花道は黙々と練習に励んだ。
無意識のうちに、流川の動きを思い出して、必死に自分に取り込もうとしていた。
そんな毎日が一ヶ月ほど過ぎた頃、花道は流川に対して怒りが出てきた。
「なんて薄情なヤツだ」
あれほどの仲だったのに。
流川が今いる場所はみんなが知っている。自分だけが特別ではない。
けれど、誰よりも近づいたと思ったのに。
「手紙も電話もよこさねー」
ものすごくふくれっ面で帰宅したその夜、流川からハガキが届いていた。
「えっ!」
ものすごく大きな声が出て、それ以上言葉が出てこなかった。
驚くことに、住所以外何も書かれていなかった。
プロのバスケット選手の写真が裏に載っていた。
「…え? どーゆうこと?」
差出人は流川だ。間違いない。
ビックリしたけれど、花道の頬は緩んだ。胸がドキドキした。
ものすごく貴重なものに思えて、花道はよく見えるところに立てかけた。
次の日、もしかしたらバスケ部全員に届いてるかもと探りを入れたけれど、誰一人受け取っていなかった。
その日の練習は、花道は浮足立った気持ちで熱心に取り組めた。
そのまま冬の選抜を終え、新しい年を迎えた。
流川からはその後連絡はなかった。花道も一度だけ返信のハガキを送っただけだった。
「もう会うこともねーかもな…」
日本に戻ってくることもないだろうし、自分がアメリカに行くことができるのかもわからない。
そんなことを考えた冬休み明けに、花道は安西に声をかけられた。
流川が今行っている一年間のセミナーに、今後のために見学に行ってみないかと言われた。
「え…オレ、アメリカ行けンの?」
行けるかどうかはわからないし、花道の努力次第だと言う。
春休みに訪れるように準備するために、花道はその日から準備し始めた。
「あ……もしかして、アイツに会える…ンかな?」
想像していたよりもはるかに早く再会できそうだ。
そう思っただけで、花道は周囲が呆れるほど張り切った。
2019. 3. 7 キリコ
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続きは、3月21日(木)にアップしたいと思っています。