ドクター

  けんか


 

 ロイエンタールとミッターマイヤーがけんかしたらしい、という噂が、ER内に広まった。
 噂というよりも、それは誰の目から見ても明らかであった。
 とにかくそばにいても、お互い顔を合わそうともせず、すれ違いざまにも避けて歩き、何よりもミッターマイヤーが勤務が終わっても家に帰らないのである。

 ミッターマイヤーは、今ロイエンタールの家に住んでいるため、同居するまでのように、お互いの家がない。そのため、家出という形に近くなるのだが、何日も入り浸れるほどの友人もおらず、ずっとER内の寝泊まりする事になってしまっているのである。

 病院にとって夜というのは、スタッフは少ない、人間の生体リズムが狂っている時間帯、そして患者が多いのも夜の方なのである。
 頭は起きているようでも、脳のどこかは眠っているような気分であり、その上昼間より少ないスタッフでたくさんの患者を診なければならない、その猫の手も借りたいくらいの忙しい夜間帯に、自身はオフだと主張しても、優秀なドクターがいれば、引きずり出されるに決まっていた。
 ミッターマイヤーは、要するに全く休息を取れないでいたのである。

 同僚の目から見て、ミッターマイヤーが倒れるのは時間の問題であった。
 「うちで良ければ泊まりにどうぞ」 と、男性にしろ女性にしろ周囲の人間は声を掛けるが、頑固で、人に気を遣うミッターマイヤーは、そのすべてを丁寧にお断りしていた。
 また、最も声を掛けるべき人物だけが、それをしなかった。
 けんかの内容については誰もはっきりとは知らなかったが、目に見えてかわいそうなミッターマイヤーよりも、周囲の非難の目は、当然そのけんか相手に向けられた。

 ミッターマイヤーが家に帰らなくなって5日目になった。
 夕刻勤務を終えたミッターマイヤーは、着の身着のままで飛び出してきた服を洗濯しておくのを忘れ、病院の術衣のままでいた。病院内のコインランドリーを借り、下着は売店で買った。
”今夜も眠れないだろうか…”
 いい加減疲れがたまってきたミッターマイヤーは、病院の休憩室で眠ることになる自分の身を哀れに思ってきた。それと同時に、意地を張るのを止めればベッドで眠れるじゃないか…と、肉体的に疲れている自分自身が、精神的にも弱く脆くなっていることを、どこか客観的に見ていた。
 そのことを思案していると、ちょうど当のロイエンタールが休憩室に入ってきた。ミッターマイヤーはそのタイムリーさに驚き、一瞬ビクッとなった。しかし、あまりにも相手が無表情で、ミッターマイヤーの様子は知っているだろうに心配しているようでもなく、また謝るでもなさそうな雰囲気に、意地っ張りなミッターマイヤーは結局言い出せなかった。こちらも結局そっぽを向くことでやり過ごし、今日も病院に泊まることが決定しそうであった。
 そこへ、ナースのビューローが入ってきた。ドアを開けた真正面にいるミッターマイヤーしか見えなかったようで、またその本人に用があるらしかった。
「Dr. ミッターマイヤー、今晩も帰られないのですか?」
 いきなりストレートな質問にミッターマイヤーは驚いたが、もう一人に聞かせるように大きな声で返事をした。
「絶対に帰らない」
 ビューローはドアを開けたまま話しているため、ドアの向こう側のロッカーのそばにいるロイエンタールに気づいていなかった。
 目の下にくまをつくりながら意地を張るミッターマイヤーに、ビューローはため息をつきながら提案した。
「では、今日はぜひ家に来て下さい。このままではドクターは倒れてしまいますよ?」
 相変わらず諭すような口調でビューローは言った。転属してから3ヶ月経ち、かなり親しくなったが、未だに年下のミッターマイヤーへの丁寧語は抜けなかった。
「うん」
「…え?」
 あっさり承諾したらしい様子に驚き、聞き返してしまった。
「今晩世話になる。よろしく、ビューロー」
「あ…、は、はい」
「良いお友達がいるんだな。Dr. ミッターマイヤー」
 二人きりだと思っていたビューローは、もう一人の低い声にかなり驚かされた。ドアを開けきると、嫌みを言った人物は静かに立っていた。ビューローは何と答えればよいのか思いつかず、ただ黙ってロイエンタールの帰り支度を見ていた。
「俺達は親しいんだ。な? ビューロー?」
 ミッターマイヤーも目線をそちらには向けないまま、そう言った。その声があまりにもミッターマイヤーらしくなく、いじわるというか、子どもっぽさを含んでいることに、ビューローは心の中だけで笑った。しかし、今、肯定も否定も出来ない雰囲気にやや呑み込まれ、「はぁ」と気のない返事しか出来なかった。
「で、では、私は残りの仕事をしてきますので、ここで待っていて下さい」
「うん」
 そんな簡単なやりとりだけで、ビューローは休憩室を後にした。そして、すぐ後から出てくるであろうロイエンタールを入り口付近で待ち伏せた。

 
 ビューロー宅は、ロイエンタールの家からまだ車で15分ほど行った静かな住宅街のアパートメントであった。
 ミッターマイヤーは、ビューローに話しかけられれば笑顔で答えるが、それ以外は俯いていることが多かった。そしてふと気になることを思いだし、やっとミッターマイヤーの方から話しかけた。
「そういえば、家族はいるんだろ? 突然行ってお邪魔じゃないかなぁ?」
「今日は、全員で出かけておりまして、私以外誰もいませんので、お気兼ねなく」
 車を運転し、真正面を見たまま軽く笑顔を見せるビューローに、ミッターマイヤーはなんとなくホッとしたような、かえって緊張するような気持ちになった。元々ミッターマイヤーはあまり友人宅にも泊まるタイプではなかった。例外はロイエンタールの家だけで、そこには遠慮なく訪ね、泊まり、あげくには同居する仲になったのである。
”オスカーは、俺が他の男の家に泊まりに行っても、平気なのかな。それが友人だといっても…。
 でも、止めてくれなかった…”
 先ほどから何回も同じことを考え、落ち込んで俯いてしまうのだった。
 助手席のそんな様子に、ビューローは楽しくてしかたなかった。
”本当に真面目で一途でいじっぱりで…、いやこれはDr. ミッターマイヤーだけでなく、Dr. ロイエンタールにも言えることだけど”
 そして、つい二人をからかいたくなる自分の性分を、自分で呆れていた。

 夕食はビューローが作った。ミッターマイヤーは客人ということで手伝わせてはもらえなかった。割と何でも器用にこなすタイプであり、料理の腕もたいしたものだった。
”こんなところは、なんかオスカーみたいだなぁ…”
 身長や黒っぽい髪、表情が大きく変わらない様子など、どことなくロイエンタールと重ねて見ていた。
 また、会話もかなりはずんだ。最初は病院内のスタッフの話になったが、いつの間にか育児についてになり、子育ての先輩として、いろんな話を楽しく聞いていた。
「うちの子は全員カボチャはダメでしたね」
「え、ビューローのとこも? うちのフェリックスも他は何でも食べるのに、カボチャだけダメなんだ。何でだろうなぁ」
 食後のワインを飲んでいたミッターマイヤーは、そう言って笑っていたのに、突然黙ってしまった。その顔からなぜ笑顔が消えたのか、ビューローにもよくわかった。

”フェリックス…どうしてるだろう…”
 この5日、本当に会っていないのである。
 元気だろうか。夜泣きしてないだろうか。疲れたオスカー一人で頑張ってるんだろうなぁ、フェリックスもいい子でいるかな、そんなことが頭の中をグルグル回り始め、目の前にビューローがいることも忘れ、突然あの家に帰りたくなった。しかし、とにかくけんか中であり、気にするな、と自分に言い聞かせるため、ミッターマイヤーは俯いた首を大きく左右に振った。
 ビューローは、皿を下げますね、と静かに立ち上がり、キッチンへこもり、ミッターマイヤーが一人で考え結論づけられる環境を作った。
”本当に、考えていることがほとんど手に取るようにわかる人だな…”
 ビューローはそんなミッターマイヤーを、呆れもし、羨ましくも思った。
 食器の片づけが終わる頃、これ以上疲れた体にアルコールは良くないだろうと、コーヒーはいかが、とリビングにいるミッターマイヤーに声をかけたが、ミッターマイヤーは先ほどまで座っていた椅子ではなく、奥のソファで横になっていた。
 ほんの10分も離れてもいないのである。しかし、ミッターマイヤーはすでに静かな寝息を立てていた。ビューローはそのあどけない様子に、大きなため息をついた。
 ”おやおや…。先日ベルゲングリューンと私について、お話したというのに…。随分無防備なんじゃありませんか? ドクター”
 ビューローは男性に興味があったわけではなかったが、男性と関係を持っている、と話した相手がこんなに無邪気に寝顔をさらすとは思ってもいなかったのである。
”楽しい人だ”
 素直にそう思った。

 ソファで寝こけたミッターマイヤーにタオルケットをかけ、その寝顔をじっと見ていると、ドアベルが鳴った。そのベルが安らかな眠りを妨げないように、素早く玄関へ向かった。ドアを開け、その客人に少なからず驚いた。
「あれ、ベルゲングリューン?」
「やあ」
 右手にワインをかかげたベルゲングリューンが、笑顔で言った。
「どうしたんだ?」
「…どうしたって…。エリーザ達が出かけるから飲みに来いって言ったのはお前の方じゃないか」
 ビューローは自分が誘った相手のことを、すっかり忘れていたらしい。他にも客人を招いてしまったことをことわった。
「実は…今お客さんがいてさ」
 部屋の中へ通しながら、静かに歩いてくれよ、と忠告した。
 広いリビングの端のソファに、タオルケットにくるまった蜂蜜色の髪が見えた。ベルゲングリューンはどこかで見たな、と記憶の中を探っていた。静かにそばに近づいて、その疲れているらしい寝顔を見て、ようやく思い出した。
「Dr. ミッターマイヤー…?」
 意外な人物が、意外なところで寝ていることに驚き、ベルゲングリューンはビューローに問いつめずにはいられなかった。
 ビューローは、ここへ来ることになった経緯を、5日前にさかのぼり、順を追って説明した。
「な。疲れた顔をしてるだろ?」
「…ああ。そうだな」
「でも意外だったな。お前がDr. ミッターマイヤーを知っていたとはな」
「ああ。この間までは知らなかったさ。盲腸の手術をするまではな」
 その手術の時、バイエルラインやロイエンタールの補佐をしていたのが、ベルゲングリューンであり、様々な術前処置を施したのも、ベルゲングリューンであった。しかし、まともに会話したことはなかったのである。
 リビングのテーブルで、先ほどベルゲングリューンが持ってきたワインを開けながら、二人で小声で話した。
「じゃぁ…、Dr. ロイエンタールとのことも知らないのか?」
「詳しくは知らないが、同居してるんだろ? それくらいの噂はオペ室でもあったじゃないか」
「同居。ま、…同棲と言った方が正しいだろう。あの人達は本当に恋人同士って感じだ。本人から聞いたわけじゃないけどさ」
「ふ〜ん…」
 頷きながら、ベルゲングリューンは眠っている優しそうな顔を振り返って見つめた。その後頭部に話しかけるように、ビューローは小さく言った。
「俺達とは違って、な」
「……」
 ベルゲングリューンは元に顔を戻しながら、複雑な顔をした。何と答えれば良いのかわからなかったのもある。確かに自分達には『恋人同士』という言葉は合わない関係のような気がしたからである。
「…で、その恋人のDr. ロイエンタールは、ここにいることを知っているのか?」
「ああ。さっき電話したから、そろそろ迎えに来るんじゃないかな」
 その返答に、ベルゲングリューンはビューローの企みを正確に理解した。そして、やってくれるじゃないか、と関心した。
「随分、思い入れてるんだな、Dr. ミッターマイヤーに」
 そういってニヤリと笑うベルゲングリューンに、ビューローもクスリと笑いながら、テーブル越しに軽く口づけた。
 ちょうどそこへ、本日2度目のドアベルが鳴った。

 ロイエンタールは意外な二人に迎えられたことを、心の中だけで驚いた。しかし、誰が誰とどういう関係で、どこに住んでいようが、たいして興味はなかった。ただ用件だけを簡単に言った。
「ミッターマイヤーは?」
「お約束通り、眠ってから連絡しましたので」
 ぐっすりお休み中です、とはっきり言うのがなんとなく怖く、ビューローはそれ以上何も言わずにリビングに案内した。その後ろをロイエンタールが続き、その後ろ姿をだいぶ遅れながらベルゲングリューンが見つめていた。
 静かな寝息を立てている恋人の柔らない表情にホッとしたロイエンタールは、そのまま抱き上げて帰ろうとした。
「Dr. ロイエンタール? もう帰られるのですか? コーヒーでも…」
 小さな声で言ったビューローに、ロイエンタールは同じく小さな声で返事をした。
「いや、ミッターマイヤーが目を覚ます前に帰る。世話になった。…ありがとう。ビューロー」
 その言葉に、二人のナースは目を大きく見開いた。しかし、その理由は二人はそれぞれ違っていたが。
 ロイエンタールは壊れ物を扱うように抱いたまま、部屋を後にした。後は、二人で話し合うべきことであり、ビューローもベルゲングリューンも、黙ったまま見送った。
 車が走り去る音を聞きながら、ビューローは改めて驚いたという顔をしながら、つぶやいた。
「聞いたか、ベルゲングリューン。Dr. ロイエンタールが俺に礼を言ったの、初めてかもしれない…」
 ベルゲングリューンの方は、なんだそんなことか、と大して驚かなかった。二人は同じ3年の時をロイエンタールのそばで過ごしたが、関わりの深さは違っていたのだろう。ベルゲングリューンは、そのことに驚いたのではなく、ロイエンタールが他人に代わって言ったありがとうも含まれていることに驚いたのである。おおよそ人に深い関心を示したことのないロイエンタールが、あんなにも大事そうに抱き、あっという間に二人の愛の巣へ帰ってしまい、自分と自分の恋人のけんかの仲裁をさりげなく行ったビューローに二人分の礼を込めて言った、あのありがとう、そのことに驚いているのである。
「…本気…だな」
「そう思うだろ?」
 そう言ってニヤリとしたビューローは、ベルゲングリューンの肩を抱きながら飲み直そうと言った。

 一方、車で揺られても、再び抱きかかえられベッドに連れて行かれても、ミッターマイヤーは全く目を覚まさなかった。その本当に疲れているらしい様子に、ロイエンタールは自分の頑固さを反省した。そして腕枕をしながら、起こさないように軽く額にキスを送り、久々に恋人を腕の中に抱き、眠りに落ちた。
 ミッターマイヤーは、約5日ぶりにまとまった時間、ぐっすり眠ることが出来た。しかし、睡眠時間がまちまちであったため、目覚めはさほどすっきりもしていなかった。ミッターマイヤーはフェリックスの泣き声で目覚めたのである。
「今行く…」
 ボーっとする頭で、恋人の腕の中から静かに抜け出し、今日はミルクで勘弁してくれ、と思いながらミルクを暖めた。フェリックスは自分でほ乳瓶を持って飲むことが出来るため、ミッターマイヤーは持たせてそばでボーっと見ていた。
”今日も元気そうだな…”
 たとえ頭が回っていなくても、子どもの健康状態を観察するくせはついていた。
 フェリックスがあっという間に飲み干したのをみて、座らせていた移動式のベビー椅子にそのままで、ミッターマイヤーは立ち上がった。
「フェリックス、シャワーを浴びてくるから」
 そう言った父親(ウォルフ)のノロノロとした歩きに、フェリックスもまだ慣れていない椅子を足で動かしながらついていった。しかし、バスルームのドアが閉まったと同時に、追いかけるのをあっさりと止め、リビングの方にゆっくり戻っていった。

 少しでもすっきりするために、冷たいめのシャワーを全身に浴びながら、ミッターマイヤーは休みをどう過ごそうか、考えていた。
”フェリックスと散歩でもいいけど…。オスカーは勤務だったっけ…?”
 そんなことを考えながら、目覚めてきたミッターマイヤーは、どこか変だとようやく気がつき始めた。
”…違う…。今日の休みも仕事するはずだったんじゃ…。なんで、仕事するんだっけ?…あっ!”
 けんか中で、口も聞かず、それどころか家出同然だったはずの自分が、なぜここにいるのだろう、昨日はビューロー宅にいたはずだった、ということにようやく思い至ったのである。
 とにかく大慌てでえシャワーから出て、濡れた体もそこそこに、頭から水を滴らせて、着替えがないことにまた慌て、バスタオルを腰に巻いてバスルームを出ようとした。
 勢い良くドアを開けると、目の前に金銀妖瞳があった。その雰囲気は寝起きそのものだったが、瞳は真正面から見つめ返し、ミッターマイヤーもグレーの瞳を大きくあけながら、突然のことに対処出来ないでいた。黙って前進してくる恋人に、一歩二歩後ずさり、口を開くのを待ったが、ロイエンタールは何も言わなかった。ミッターマイヤーは、おはようと言うべきなのか、先にゴメンというべきなのか、悩んでいるところを突然腰で抱き上げられた。
「なっ…オスカー?」
 抱き上げられ腰掛けさせられたのは、広い洗面台であり、その振動で上に乗っている瓶が倒れた音がした。つい習慣で、直そうと後ろを振り返ろうとした瞬間、ロイエンタールの大きな強引な両手がミッターマイヤーの両頬をつかみ、いきなり熱烈なキスを贈ってきた。高台にいるミッターマイヤーの首を無理矢理下に向け、離れようとするミッターマイヤーをそうさせず、そのキスは恋人が脱力するまで続けられた。
「…ん…」
 ようやくその口からため息のような声が漏れ始めた時、ロイエンタールは初めて顔を離した。
「…ウォルフ」
 優しいテノールが自分を呼ぶ声に、すべての理性も怒りも吹っ飛びそうなミッターマイヤーは、よく回らない舌で、とりあえず非難した。
「いきなり何するんだ、オスカー」
 そんな恋人の様子に、ロイエンタールは自信ありげに答えながら、行動もともにしていた。
「夫婦けんかをすぐにまとめるには、これが一番なんだそうだ」
 そう言いながら、両手で恋人の体に火をつけようとしていた。
「や、やめろよ。そんなの知らないよ、俺…」
 ミッターマイヤーはくすぐったさに身をよじりながら、でも大きな抵抗はしなかった。
 ロイエンタールはその手を一瞬だけ止めて、金銀妖瞳を薄く紫に色づいたグレーの瞳にしっかり合わせながら、はっきりと言った。
「ウォルフ、意地を張ってた。俺が悪い。すまなかった」
 突然けんかを止めるようなことを言われ、ミッターマイヤーも慌てて謝った。
「違うよ、俺が悪いんだ。…ゴメン、オスカー」
 しばらく真剣な顔をしていた二人は、同時に小さく笑い、お互いがお互いに優しいキスを贈った。
 結局この二人は、たわいもないことでけんかし、ただ二人とも頑固だったために仲直りに時間がかかり、そのきっかけを探していただけだった。

 バスルームから、恋人同士の熱い囁きとため息が聞こえはじめ、ドアの外のフェリックスは、自分がもう少し大人だったら、ここでため息でもついてみせるのに、と思っていたかもしれない。

 


1999.10.26 キリコ
2001. 7. 28  改稿アップ

 <<<BACK     銀英TOP     ドクタートップ    NEXT>>>