負けず嫌い ―勉強―
インターハイ出場が決まった日、俺は久しぶりに桜木とヤッた。最後まで、というのだろうか、これまでの「ヤる」とは違う「ヤッた」をした。俺は、痛い思いをするとわかっている2回目でも、大人しく下になった。こういう言い方が正しいのかもわからないが。
痛くて眠れない真夜中に、隣の寝息を聞きながらその行為について考えた。もしかして、これはSEXなのだろうか。興奮を抑えるために、こういうことをしているのだろうか。それにしても、なんでわざわざ痛い方法で? いや、桜木は痛くないらしいが。ちゃんとというか、軟膏を引っ張り出してきて、ソコに塗っていた。どあほうでも気付いたんだな、と思った。それがあっても、痛いものは痛い。 エヘッ(笑)
しかし、現実的に、もっと痛い話があった。
2年生になってから、この桜木との時間が増えたからか、これまで以上に勉強していなかったのだ。赤点があると、インターハイに行けない。それは困る。俺も困るが、チームも困るはずだ。俺は、常に一番を目指していて、実際そのはずだから。だけど、勉強の方では、あまり負けず嫌いが発揮されたことはないのだ。
俺と桜木は、職員室に呼び出され、宮城キャプテンが謝っていた。去年の赤木先輩のように。しかもキャプテンは赤点なしらしい。さすが部長。それでも教えるほどではないらしく、
「自分達でなんとかしろ」
と、追試が終わるまで、クラブ居残り禁止令が出てしまった。「おめーはどうやって勉強すんだ?」
長い廊下で桜木が横から聞いてきた。同じことを考えていた俺は、すぐに返事をせず、きっと同じ提案を考えているはずのコイツに言わせることにした。
「なぁ。…一人でやるよか、能率上がると思わねー?」
成績の良くない者同士でやっても、かえって能率は悪いんじゃないかとも思う。
「……うちでやらねーか?」
やっぱそう考えただろ。おかしなことだが、俺も真っ先にそう思った。だけど、一緒にやろう、など、俺には口に出来なかった。
「…俺は、お前よりマシだ」
それだけ言って、桜木を置いていくペースで歩き出す。特別返事もしなかったが、否定しなかったのが了解なのだと桜木ならわかるだろう。そんなことを考えると、なんだかツーカーみてーだが。俺達の間には、そんな意志の疎通はないはずだ。だけど、通じるからまぁヨシとしよう。「だーーーーーっ! この問題わからん!!」
一問一問解く度に、そう呻る桜木は、ご丁寧にボーズ頭をかきむしる。その気持ちはよくわかるが、俺は言葉でも態度でも示すことが出来ない。桜木は、自分の感情に素直なんだろう。
「…どあほう…」
「なにっ! おめーはわかるってのか? あん?」
俺を睨み付けても、いきなり答えが出るわけでもないだろうに、とにかく余計な体力を使わずにはいられねんだろう。
見せられた数学の問いは、正直言って俺もわからなかった。それでも、桜木に対しては猛烈に負けず嫌いを発揮してしまう俺は、他の問題を桜木にやらせて脳みそをフル回転して考えた。
かなり時間が経ってから、「これが答えだ」とエラそうに言う。
「ぬおおおおお! 答えもあってる! くそっ! ルカワに出来るなら俺でも解けるはずっ!」
そんな風に宣言した後、必死で考えて問題を解いたらしい。俺に聞かないで、先へ進んでいく。そんな姿を見ると、俺も意地になってしまい、自分の力で解こうとする。
案外、負けず嫌い同士で勉強するのもいいのかもしれない、と追試が終わった後に思った。教師が驚くような成績を、二人とも出したからだ。「よーーし! クラブ行くぞっ! 今日こそ、おめーを倒してやる!」
珍しく爽やかに職員室を出た桜木は、俺に指差しながらそう言った。俺は、その手をペチッと音を立てて叩き、例によって「どあほう」とだけ呟いた。
おまけページアリ…
2000.11.13 キリコ