成人式はまだだけど

 

 明日は祝日だから、と桜木の部屋に来ていた。最近は、何もしないで寝る、というのが少なくなってきた気がする。
「オメーがくっついてくるからよぉ…」
 桜木は、俺のせいにする。
「…人のせいにするんじゃねーどあほう」
 俺は寒いから、つい人肌に寄ってしまうだけだ、と思う。

 冬というのは、寝ることを趣味とする人間には重要な時期で(いや、別に趣味じゃねーが)、とても眠たいのだ。寒いから、それだけでエネルギーを使う。そう習った気がする。
 同じ条件でも、桜木は元気そうだ。俺よりも薄着で平気な顔をしているし、体温も俺より高い。常夏のような男、かもしれない。

 せっかく朝寝の出来る、貴重な祝日を、俺はまた桜木にぶち壊された。
「オイ、起きろっ! ルカワっ!!」
 こういうシーンは何度目だろうか。数えてないし、数えられないくらい、同じ光景を経験しているはずだ。
「…うるせー…」
 学校に行く以外で早起きというと、バスケット以外にない。桜木がしつこく起こそうとするのは、それ以外のこともあるので、素直に起きることは出来ない。
 今日も、少しでも暖かい昼間に行くつもりでいたので、朝から起きるのはイヤだった。
「なー ちょっと起きろって!」
 桜木は、今日もしつこかった。
「…てめー、なんで俺が起きにくいか、忘れたのか。どあほう!」
 頭は少しずつ起きたとしても、体はあまり言うことをきかない。その元凶が、俺を無理矢理立たせようとしているのだ。文句言ってもバチは当たらねーはず。
「あ…… す、すまねー」
 思い出したということは、忘れていたのだろうか。ちくしょう、こんなにも体の負担に差があるのなら、今度からは逆で…とひそかに決心する。
 謝りながらも、桜木は起きてくれ、という。珍しく頼み口調なので、俺は引きずられるままに窓に向かった。

 窓の前で、俺の肩を支え、もう片方で開けようとする。
「いいか? 驚くんじゃねぇぞ?」
 カーテンを開けた窓の外は、明るいのがわかる。いい天気だって言いたいのか、さっさと開ければいいものを、わざわざもったい付けた。
「…さっさと開けろ」
「ふふん! せーのっ!」
 という大声とともに窓が全開になる。同時にひんやりと冷たい空気が流れ込み、思わず目を細めた。その狭い視界には、間違いなく真っ白い世界が拡がっていた。そこら中の家の屋根も、車も、元の色がわからないくらい、しっかり雪が積もっていた。着物やスーツの奴らが、歩きにくそうに歩いている。そうか、今日の祝日は成人式だったか。大人になる儀式に向かうソイツらには悪いが、俺はこの雪にちょっと感動した。
「…ゆ」
「雪だぞーーー!」
 俺の小さな呟きを、嬉しそうな声が覆ってしまった。
 心の中で、こんなにも真っ白で綺麗じゃねぇかと思ったのに、先に口で形容されてしまうと、相手が桜木なだけに、また素直に言えなくなってしまった。
 本当は、俺もなんとなくはしゃぎたい気持ちになったのに。
「…たかが雪じゃねぇか、どあほう…」
 思ってもないことを、口走る。言ってるそばから、少し後悔したが、まぁけんかになって終わるかと思った。
 ところが。
 桜木は、窓を全開のまま、俺の肩を引き寄せて、軽く口付けてきた。離れながら、こう曰う。
「ふふん! 嬉しいくせによー! 素直じゃねぇなオメーは」
 そう言って、なんとも優しそうな笑顔を俺に向ける。

 これは、誰だ…?

 目の前の見慣れた桜木花道は、明るい中でも俺に穏やかに接することが出来るようになったらしく、いきなり知らない奴にも見えた。
 それだけ、大人になったのか。
 それだけ、自信がついたというのだろうか。
 …でも、何に対して?
 

 

2001.1.22 キリコ
昔の成人式は1/15でしたよね(笑)

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祝日前夜の詳細…?(笑)